『羅小黒戦記2』日本アニメを揺るがす前作以上のクオリティ 社会派要素を王道展開に昇華
日本でも12月25日に公開を控えている『ナタ 魔童の大暴れ』が3000億円を突破するという驚異的な興行収入を叩き出したことで、世界的に盛り上がりをみせている中国アニメ産業。とくに2020年以降の成長は目を見張るものがある。というのも文化強国政策の一部として、国をあげてアニメ産業を活発化させようとしてきたからだ。例えば日本に学びに行く場合は、就職支援や補助金なども出る場合もある。そのため、日本の大学や専門学校でアニメやデザイン技術を学び、自国に持ち帰るというサイクルを繰り返すアニメ留学生によって、日本の技術が世界に流出していることを一時期問題視されることもあったものの、もはやそんなことを言っている次元ではないほどに成長した。
先日の第38回東京国際映画祭と同時開催のマルチコンテンツマーケット「TIFFCOM」でも多くの中国アニメが出品されており、カンヌやベルリンといった大手映画祭でも中国エンタメ企業の出展が毎年増加傾向にある。『白蛇:縁起』(2019年)や『雄獅少年/ライオン少年』(2021年)といった劇場アニメに加えて、『時光代理人 -LINK CLICK-』や『百妖譜』などのテレビアニメも放送されるようになっているが、これからもっと多くの中国アニメが世界に発信されていくだろう。
そんな中国アニメの底力を世界に見せつけた代表的作品のひとつに『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』(2019年)がある。2011年から不定期に配信されている、同名のウェブアニメを原作とした長編作品だ。ウェブ版に関しては、テレビ用に再編成したバージョンが2025年10月から日本でも放送されている。当初はコメディ要素の強いデフォルメアニメであったが、それを観ていると、次第に方向転換していったことがわかるはず。日常系アニメだったのが、いつしかバトルアニメにシフトしていったという点では『まじかる☆タルるートくん』や初期の『キン肉マン』なども思いあたるが、『羅小黒戦記』の場合も世界観をどう拡張していくかと、常に試行錯誤していたことがグラデーション的に伝わってくるのは興味深いし、それが中国ユーザーのニーズ変化を表しているともいえる。
また今作は、日中同時公開という異例のスタイルで公開されたことでも話題となったが、もともとは日本在住の中国人ユーザーに向けて公開するのが目的だった。ところが日本人からも高い評価を受けて、のちに吹替版も制作された経緯があり、多くの日本人ファンを抱える中国アニメという点では、現時点で今作に勝るものはないだろう。
おそらく影響を受けているであろう『NARUTO』を彷彿とさせる世界観に、中国神話要素がミックスされ、独自のものに仕上っており、ストーリーは、人間と妖精による異種共存を描いた『X-MEN』的な王道。共存派と独立派の異なる正義が対立し合う構造も実社会の戦争や紛争のメタファーだ。こちらもよくある構造ではあるものの、ストーリーが王道だからこそ、どう“魅せる”かという点に強いこだわりを感じた。
とくにデザインに関しては、魅力的な部分が多かった。日本人ユーザーにも刺さる少年漫画的ヴィジュアルは大前提として、例えばキャラクターと背景デザインのシンクロ率に注目してもらいたい。人物の前面ショットには影がほとんどなく、線も少ないというのに、背景が書き込まれていることで平面的にはならず、逆に奥行を感じさていた。まさにデフォルメとリアルの中間的な作画だ。それによって、キャラクターたちがスピーディーでダイナミックなアクションシーンを繰り広げていても、画面がごちゃごちゃしていないのだ。