人間は“進化”しないほうが幸せだったのか? 『ばけばけ』を通して知る“明治”のリアル

『ばけばけ』を通して知る“明治”のリアル

 トキ(髙石あかり)と銀二郎(寛一郎)の新婚生活が始まった。朝ドラことNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第3週「ヨーコソ、マツノケへ。」(演出:泉並敬眞)。初日はトキと銀二郎のふたり、湖で朝日を浴びて、太陽と神様を拝んで、清々しい。トキはフミ(池脇千鶴)にやり方を教わり、朝食を作る。これまで習っていなかったのかはさておく。しじみを「コロコロ」やさしく洗うやり方を、トキはほどなくして、タエ(北川景子)に教えることになるとは、そのとき思ってもみなかったであろう。

 新婚と言っても、狭すぎる部屋に家族5人。寝るときも、家族の視線が気になる。そのうえ、勘右衛門(小日向文世)は「すべてにおいて格の高い武士としてのふるまいをせえ」と銀二郎をしごき始めた。もともと武士への執着のない銀二郎は、司之介が散切り頭になったことでこれ幸いと自分も髷を落としたというのに、結局、武士にこだわる家だったのだ。なんだかしぶしぶ、勘右衛門のしごきを受けている。トキとも距離をとるように言われ、見られていないときでも離れようとする真面目さ。これでは新婚気分どころではない。

 この頃の結婚はあくまで家の存続のためであり、跡継ぎを作りさえすれば用は足り、人格や男女の甘い感情など不要だったのだろう。野生の生き物なんてみんなそうで、自然の摂理のなかで生まれて育って交配して子孫を増やして死んでいくの繰り返しである。この頃の人間はまだそれに近く、そこになぜか家柄というプライドだけが芽生えてしまったのだと思う。プライドやら愛情やらが芽生えたことははたして幸福なことなのだろうか。

 愛情に飢えているのは、雨清水家の三男・三之丞(板垣李光人)だ。長男・氏松(安田啓人)が跡継ぎなので、何も期待されず所在ない日々を過ごしてきた。父・傅(堤真一)の視線にはまったく入っていなくて、言葉を交わすこともない。

 ところがあるとき、傅の織物工場が不況で立ち行かなくなって、氏松が出奔。次男はとうにこの世にいなくて、三之丞が傅の手伝いを急にやることになる。本来、これで、父と仲良くなれればよかったのだろうけれど、傅が急に金策に走り無理をしたせいか病で倒れてしまう。潰れかかった工場を任されて、なんにもわからない三之丞は手も足も出ない。

 不満ばかりが募っていくさなか、実はトキが傅とタエ(北川景子)の子で、彼の姉だったことを知ってしまう。以前からやけにトキを贔屓しているように感じていたので三之丞は拗らせを募らせ、トキにそのことをバラしてしまった。

 長男でもないのに養子に出したということで目をかけられるのなら、自分も養子になりたかったと愚痴るが、もし三之丞が松野家の養子になっていたら、銀二郎のように働かされるだけなのだ。勘右衛門に鍛えられ、司之介(岡部たかし)のようにダラダラした父親にうんざりしながら暮らすことになるのだ。

 そう思ったら、これまで立派なお屋敷で愛情以外は何不自由なく生活できたのだから、胸を撫で下ろすべきだろう。この時代、個人の幸せの追求はできなかったのだと思う。西洋文化が入ってきて、ようやく個人の幸せの存在を知り始めるのかなという気がする。少なくとも武士の家庭では。庶民のほうが個人の幸せを自覚できていたのかもしれない。

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