バンドマンから事務所の代表に転身 笹岡辰行が貫く、時代に即した“音楽のかたち”

コロナ禍で見出したツイキャスという光明

――コロナ禍で始められたツイキャス配信が、5年間も毎日続いていると伺いました。どういったきっかけで始められたのですか?
笹岡:コロナ禍で予定していたワンマンライブが中止になってしまったんです。他の事務所は1年先までスケジュールが埋まっていて大打撃を受けていたようですが、うちは1本だけで済んで不幸中の幸いでした。その時、「どうせ暇だから何かやろう」と。うちのアーティストは喋りが得意だし、その場で歌うこともできるので、「じゃあ配信で」という軽い気持ちで始めたんです。ツイキャスにこだわっていたわけではなく、なんでもよかったんです。最初は収益化の方法も全く知らなかったですし(笑)。
――当初の目的はライブハウスへの支援だったそうですね。
笹岡:はい。バンド時代からお世話になっているライブハウスの経営が大変だと聞いていたので、その打撃の大きさが身に沁みてわかったんです。ライブもできない状況では、僕らが配信で稼ぐしかないなと。配信で得た収益を、これまでお世話になったライブハウスに届けに行きました。事務所を立ち上げた時も、みんなが本当に助けてくれましたし、彼らが大変な時、少しでも力になりたかったんです。国からライブをやるなと言われて、どうしようもなかった彼らの状況が、痛いほどわかりましたから。
ツイキャスは、本当は数カ月で終わるつもりだったんですが、見てくれるファンの方々から「続けてほしい」という声をいただいたので続けることにしました。そこからが、僕たちの本当の配信の始まりで、気づけば5年間、1日も休まず続いています。ツイキャスによって全国にファンが増えたのは嬉しい誤算でした。これまでは全国でライブしてちょっとずつファンを増やしていくしかなかったところ、配信はいきなり全国を相手にできる。それでコロナ禍明けにライブしたら、全国から集まってくれたんです。
――ライブではファンとの交流も非常に大切にされているそうですね。
笹岡:僕の事務所が主催するライブでは、終演後に必ず2時間ほどの「交流会」を設けています。ファンも、アーティストも、ライブハウスのスタッフも、全員が一緒になってお酒を酌み交わすんです。配信ではお互いハンドルネームで呼び合っているので、顔はわからない。ライブで初めて会って、「ああ、あなたが〇〇さんだったんですね!」となる。その「答え合わせ」の瞬間がたまらなく楽しいんですよ。コロナが明けてから開催したライブは、全国からファンが集まってくれてソールドアウトしました。みんなが喜んでくれる顔を見たら、これは続けなきゃダメだなと。だから、演奏時間を削ってでも交流の時間は確保させてもらっています。
――しかし、毎日配信を続けるのは並大抵のことではないと思いますが、秘訣はありますか?
笹岡:僕と所属アーティスト2組の、3組でローテーションを組んでいます。1人で毎日やっていたら、見ている方も飽きてしまうでしょうし。毎日やるからこそ、ファンは「ツイキャスを開けば、いつでも誰かがいる」という安心感を持ってくれます。朝勤の人、夜勤の人、休みの日、それぞれの生活サイクルの中でふと生まれた暇な時間に、僕らの存在が拠り所になれたらいいなと思っています。特に地方に住んでいて、娯楽が少ないというファンからは、「これだけが唯一の楽しみ」だと言ってもらえます。配信で名前を呼んで「おかえり」って言うだけで、すごく喜んでくれる。そういうコミュニケーションが、僕らの強みです。

――台本なしの無茶ぶり企画も多いそうですが、特に印象的なものはありますか?
笹岡:僕らの配信は台本なしのガチンコ。昔見ていたテレビ番組『電波少年』シリーズ(日本テレビ系)の影響が強いですね。例えば、アーティストが配信中に同時視聴者数100人を超えなかった時の罰ゲームとして、ハンズで買ってきたヒノキの四角い木材を渡して、同時視聴100人達成するまで紙やすりで丸くするとか(笑)。
――ご自身がハプニングに見舞われることもありますか?
笹岡:ありますね。キャンプ場から深夜に一人で配信していた時、スマホの充電が切れて真っ暗闇の中で2時間くらい遭難しました。視聴者は「迷子になっちゃった」という僕の言葉の直後に配信が切れたものだから、大騒ぎだったみたいです(笑)。あと、同じくキャンプ配信で、ナイフで薪を削っていたら手元が狂って、親指の爪を半分くらいえぐって吹き飛ばしてしまったことも。その瞬間も全部配信されていて……。
――それはガチのハプニングですね(笑)。
やったことのないことに挑んでいきたい

――ツイキャスの配信を始めてからファンとの関係が変わってきた実感はありますか?
笹岡:ファンも入れ替わったと思います。僕らは音楽事務所なので新譜を出す時も配信で発表することを大事にしています。タイアップ曲でも最初に配信で発表させてほしいとお願いして、ファンと一緒に喜びを分かち合いたいからとテレビ局などを説得しています。
――例えば最近では、FODで配信されている『Love Sea ~愛の居場所~』で音楽制作を担当されていますね。フジテレビも配信での発表に反対しなかったですか?
笹岡:はい。普通にやらせてもらえました。
――ファンとしては、自分たちの居場所であるツイキャスで発表してくれるのは、嬉しいですよね。
笹岡:そうですね。発表の時は、普段の何倍もの視聴数になります。そういう時は、アーティストにも知らせていなくてドッキリみたいにしているんです。そうするとファンの反応も面白いんですよ。
――笹岡さんの今後の目標についてお聞かせください。
笹岡:もっと大きなこと、今までやったことのない分野を攻めていきたいです。具体的には、映画やアニメのタイアップ、それからNetflixやPrime Videoのような、世界に繋がるネット媒体にも力を入れていきたいです。
――最後に、この記事を読む読者やファンの方へメッセージをお願いします。
笹岡:僕がよく言うんですけど、「夢しかねえな」って。音楽だけで食べていくのは難しい時代ですが、やり方次第で道は拓ける。頑張れば、叶うことって結構あるんですよ。僕らの音楽活動や配信を見て、誰かに夢を与えられたら嬉しいです。




















