2025年夏ラブコメアニメを総括 『わたなれ』『カッコウの許嫁』など様式美と逸脱の魅力

最後に『少年マガジン』を確認してみよう。ここ最近、各期に1〜2本は『少年マガジン』原作ものが放送されているが、今期も例に漏れず『彼女、お借りします』第4期と『カッコウの許嫁』第2期が放送されていた。前者は2020年以降、2021年と2024年を除いて夏に放送されていて、ある種夏の風物詩となりつつある。内容としても、和也の葛藤を中心に回り続けるラブコメディが常に続いていて、もはや様式美と言ってもよいだろう(筆者としては、墨がそろそろ物語に絡んでほしいとずっと思っている)。
他方、『カッコウの許嫁』は形式の逆をついている作品でもあるように見受けられる。本作は一見すると極めて正当な「青春ラブコメ」じみた作品である。第2期で描かれるのは幸、ひろ、そして新たに登場したあいが主人公・凪へアプローチしていくなかで、文化祭を通してメインヒロイン・エリカが恋心を自覚する過程だった。しかし面白いのは、こうした五角関係的な典型的な「ラブコメ」の展開であるにもかかわらず、ストーリーが常に切断され続けているという点にある。第2期では終盤に文化祭がありつつ、その直前まで目まぐるしくさまざまなことが起こり、またそれぞれの連関はやや曖昧なものになっている。ただしそれは脚本として破綻しているという意味ではない。そうではなく、本作は五角関係という「ラブコメディ」らしい設定を採用したことで、ヒロインたちの感情や行動を物語の展開に優先させてきたのではないだろうか。それゆえひろがラブコメレースへの「参戦」を宣言するシーンや、幸が式場に突入するシーンは一層魅力的に映る。ここにこそ、『カッコウの許嫁』の魅力が宿っており、それは別の側面からみれば一見ラブコメの形式に沿っているようにも見えつつ、そこから逸脱していることで成立しているようにも思うのだ。
多様に分化していく「青春ラブコメ」
見てきたように、「青春ラブコメ」とひとことで言っても、内容を詳細に見てみれば多種多様な作品が放送されている。特に2025年夏クールに絞ってみれば、『わたなれ』のようなラノベの文法に従ってガールズラブという新たな要素を取り入れる作品があり、他方でマンガ原作に目を向ければ『帝乃三姉妹』から『カッコウの許嫁』まで、「青春ラブコメ」の生態系とでも呼ぶべき多様さが見られた。「CloverWorks nights」においても確認したように、「青春ラブコメ」にはこうした一見ばらばらのようにも思える作品たちを一つのジャンルとして成立させる懐の広さがある(もちろんそれは、見方を変えれば『帝乃三姉妹』を飲み込んだような重力でもある)。
またマンガ原作やラノベ原作のみでなく、今期はノベルゲーム原作の作品も、「青春ラブコメ」と読んでしかるべき作品(『Summer Pockets』(昨期から継続)、『9-nine- Ruler's Crown』、『ぬきたし THE ANIMATION』)が放送されていたことも目を引く。同クールにノベルゲーム発のアニメが複数作揃い踏みするのは、特に近年では極めて珍しいことだろう。ノベルゲーム原作の作品たちに見られる、主人公を軸にヒロインたちが集まり、いくつかのイベントを経由しながら徐々に結末へと向かってゆく……といったような古き良き形式を貫く美学や、そもそも『ぬきたし』をこのジャンルに含めるかどうかなど話題は尽きない(かなり異質な作品ではあるが、筆者はやはり「青春ラブコメ」の範疇として捉えたくなる)が、こうした議論については別の機会に譲ることにしたい。





















