『ブラック・ショーマン』にみる福山雅治のスター性 有村架純との見事なバランス感覚

『トリック』山田奈緒子との共通点

一方で、共演の有村架純が示す演技のベクトルは、福山とはまるで逆だ。彼女の魅力は素に近い自然体にある。福山の記号性が大きければ大きいほど、彼女の存在は観客を物語の地平に引き戻す。スター俳優とリアリズムの女優。この2人の補完関係が映画を成立させている。
有村はあくまで役柄としてスクリーンに存在し、そのナチュラルな演技が観客の共感を担保する。そのうえで、福山の圧倒的なスター性が物語を牽引する。もしこの2人のどちらかが欠けていたら、映画は過剰に虚構へと傾きすぎたり、逆に地味な群像劇に収まってしまったかもしれない。彼らのバランス感覚は、まるでシーソーの両端のように映画を安定させている。

他のキャストは、もはやスター福山を引き立たせるための舞台装置に近い。仲村トオル演じる被害者は、物語を駆動させる仕掛けとしての役割に徹し、生瀬勝久が演じる警部は、緊張とユーモアの緩急を調整する潤滑油として機能する。成田凌や伊藤淳史といった、他の作品であれば主演を張れる俳優ですら、ここでは徹底して福山のスター性を支える側に回り、福山雅治が輝くための環境を整えている。結果として映画全体が、主役のカリスマを最大化するための装置として統合されているのだ。
実はこの『ブラック・ショーマン』、あるドラマと構造がよく似ている。仲間由紀恵演じる売れないマジシャン・山田奈緒子と、阿部寛演じる天才物理学者・上田次郎が、超常現象の背後にある謎を暴くテレビドラマ『トリック』だ。特に劇場版では、過疎化の進む村を舞台に事件が発生し、凸凹コンビが事件を解決するという流れがそっくりである(しかも両作品ともに、生瀬勝久が警部役で登場している)。

もう一点興味深いのは、「マジシャン=外部者」としての立ち位置。『トリック』の山田奈緒子は、芸能界では売れない半ば落ちぶれたマジシャン。『ブラック・ショーマン』の神尾武史も、ラスベガスでの栄光を失った元マジシャン。社会的に疎外された存在が、事件の真相を見抜く能力を発揮する。これは古典的探偵像とも響き合う。探偵は常に共同体の外側からやってきて、その共同体の虚構を暴き、再び外へ去っていく。マジシャンという職業は、その外部性を強調するモチーフとして、極めて有効に機能している。
『ブラック・ショーマン』は、福山のスター性を過剰に演出することで、推理小説的な知的快楽と、マジック的な視覚的快楽を融合させた一作だ。本作は、東野圭吾原作のミステリー映画であると同時に、「福山雅治論」を体現する作品でもある。イッツ・ショータイム!MASAHARU FUKUYAMAショーが、ついに劇場で幕を開けた。
■公開情報
『ブラック・ショーマン』
全国公開中
出演:福山雅治、有村架純、成田凌、生田絵梨花、木村昴、森永悠希、秋山寛貴(ハナコ)、岡崎紗絵、犬飼貴丈、森崎ウィン、伊藤淳史、生瀬勝久、仲村トオル
原作:東野圭吾『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』(光文社文庫刊)
監督:田中亮
脚本:橋本夏
音楽:佐藤直紀
配給:東宝
©2025「ブラック・ショーマン」製作委員会
公式サイト:https://blackshowman.jp
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