『あんぱん』ついに世に出たアンパンマン のぶが語る“カッコよくない”ヒーローの魅力

『あんぱん』(NHK総合)第117話では、掲載する原稿をめぐって編集者とのバトルが描かれた。
嵩(北村匠海)が美術監督として携わった映画『千夜一夜物語』は封切りされると大ヒットし、映画館は満員になる。手嶌(眞栄田郷敦)にとっても、この成功は恵みの雨だった。時代は劇画ブームで「僕は古い人間だと言われている」「かつて僕に憧れた漫画家たちが、今や僕を追い越そうとしている」と手嶌は自嘲する。天才でも時代の流れにあらがうのに必死なのだ。

反響を受けて、嵩のもとにさらなる仕事の依頼が舞い込む。手嶌は、嵩の「キャラクターを生み出す能力」を称賛し、映画を作らないかと持ちかける。手嶌は嵩の才能を高く買っていた。編集者の本間(平井珠生)が来宅し、「なんでも大歓迎」なので次回作を書いてほしいと頼み込む。迷った末に、嵩は手元にあった『アンパンマン』の原稿を差し出した。
一度は断られた『アンパンマン』。その時は構想段階だったが、本間が違和感を示したおじさんは当初のデザインのまま。原稿を一読した本間は、ストーリーに納得した上で、イラストの主人公に減量できないかと注文をつけた。考え込む嵩の横で、のぶ(今田美桜)は「できません。個性ですから」と却下。その勢いに押されるように、本間は掲載を承諾した。

長い助走期間を経て、私たちは『アンパンマン』が世に出る瞬間に立ち会っている。私たちが知っているアンパンマンとはまだ少し違うけれど、まぎれもなく愛と勇気のキャラクターだ。そのことは第117話後半で明らかになった。
『アンパンマン』は、ヒーローのイメージを打ち破るものだった。メイコ(原菜乃華)は「地味」と言い、健太郎(高橋文哉)は悪者と戦わないのかと疑問を口にする。また、登美子(松嶋菜々子)は「最悪ね」と笑う。貧乏でマントも買えず、ハンサムでなく、汗っかきで風呂に入らないアンパンマンは、ヒーローらしくないと思ったのだろう。
けれども、それらはすべてアンパンマンの魅力と表裏一体だった。周囲の評判を気にする嵩をよそに、のぶは、アンパンマンの「カッコよくないところ」が好きだと言う。飢えと戦う『アンパンマン』の根底に、反戦の思想があることは過去回でも触れられたが、第117話ではさらに一歩掘り下げる。大事なところなので抜粋する。

「うちは子どもの頃から、悪いやつは懲らしめないかんって、そう思うちょった。それが正しいことで、正しいことをするのがかっこいいと思うちょった。けど、あのおんちゃん見たら、そうやないがやってハッとする」
恨みは恨みしか生まない。世の中の害になるような悪い人間でも、相手から見たら、こっちのほうが悪者に見えるかもしれない。戦争中の国同士が、互いを敵だと思って攻撃するようなものだ。嵩が描くアンパンマンは、「正しいとか正しくないとかでなく、自分は撃たれても、おなかをすかせた子どもたちのために飛び続ける」。敵や味方という概念を超越しているのがアンパンマンだ、とのぶは理解していた。

「ヒーローは正しいものだ」、あるいは「正しいからヒーローなのだ」という硬直した見方ではなく、おなかをすかせた子どもたちに食べものを分けるようなあり方こそが本当のヒーローであり、そこに逆転しない正義を嵩とのぶは見出した。嵩はキャラクターと物語に託し、のぶは嵩の意図するところを正確に理解していた。
戦争体験を取材する蘭子(河合優実)を、八木(妻夫木聡)が励ました第117話。アンパンマンが、子どもたちの心に届く日は近い。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK





















