『こんばんは、朝山家です。』が描いた“変わらない日常”の尊さ 未来の“静かな希望”を願って

『こんばんは、朝山家です。』(ABCテレビ・テレビ朝日系)が、最終回を迎えた。朝山家の4人に、大きな変化はない。賢太(小澤征悦)は相変わらず自分勝手で、エゴサーチばかりしている。朝子(中村アン)も相変わらず言葉遣いが悪く、常にイライラ。蝶子(渡邉心結)と晴太(嶋田鉄太)が、急成長を遂げてイキイキと学校に通うようになった……なんてこともない。
だが、家族が“相変わらず”でいられることこそ、実は何よりも尊いのかもしれない。死によって断ち切られた中野(松尾諭)の日常を思うと、朝山家の変わらない姿は、停滞ではなくたしかに生き続けている証なのだと感じられるのだ。
そもそも、家族とはそういうものだ。ドラマみたいに、最終回で都合良く奇跡が訪れたりしない。何も変わらないまま、同じ会話を繰り返し、同じ日常を過ごしていく。喧嘩をしたり、愚痴をこぼしたりしながらも、同じ屋根の下で暮らし続けることにこそ意味があるのだ。
そして、いつか振り返った時、そんな日々こそが“奇跡”だったと気づくのだろう。『こんばんは、朝山家です。』で足立紳が描いてきたのは、家族の劇的な変化ではなく、変わらない日常の尊さだった。
コメディ要素が強かった物語のなかに、突如として差し込まれた中野の死。タイミング的に、彼は自死をしたのだと思っていたが、どうやら事故だったらしい。浜辺で昔の仲間とキャンプをしていた時に、ふざけて服を脱いで海に突っ込んでいき、そのまま溺れて死んでしまった。
これだけ聞けば、たしかに事故として片付けられる。でも、中野の“これまで”を知っているわたしたちは、成瀬(土佐和成)が言うように、「半分自殺だったんじゃないか」と感じずにはいられない。
きっと、賢太も同じことを思っていたはず。でも、真相は闇のなかだ。中野はもう否定も肯定もできない。死んでしまえば、他人が身勝手に作ったストーリーに縛られるしかないのだ。彼の悲痛な心の叫びは、もう誰のもとにも届かない。
だからこそ、“相変わらず”な日常を積み重ねていける朝山家の姿が、まぶしく見える。たとえダメダメだったとしても、生きているかぎり自分のストーリー(=人生)を成功へと導くチャンスが残されているのだから。
たとえば、晴太は中学校に進学しても不登校のまま。家でゲームをしたり漫画を読んでばかりいる。でも、10年後に彼がゲームクリエイターや漫画家として花を開いたとしたら――停滞していたの日々が、成功につながる大切な時間だったという認識に変わるはずだ。
蝶子だって、そう。今はまだ部活を辞めたことを後悔しているかもしれない。けれど、最後に笑えたら、“挫折”という経験も、彼女のストーリーを豊かにするための大事な一行になる。
過去は変えることができない。でも、未来で成功をつかめば、かつての停滞や挫折も意味を変える。『こんばんは、朝山家です。』が伝えていたのは、そんな静かな希望だったのではないだろうか。
最終回では、“家族”をテーマに映画を撮った賢太が、中野の遺影に向かって、「俺そのうち、中ちゃんのこと映画かドラマのネタにすると思う」と語りかけていたシーンがあった。彼のこれまでの言動からすれば、“自分のことしか考えていないやつ”だと受け取られてもおかしくない。けれど、この一言は賢太なりの――いや、賢太にしかできない愛の告白だったように思う。
愛しているからこそ、相手のことをたくさん見る。たくさん見るからこそ、“書きたい”と思う。賢太は家族と同じように中野のことを愛していたから、彼をネタにしようと思ったのだろう。
ずっと、中野の死から目を背けてきたけれど、作品にするとなるとしっかり向き合わなければならない。きっと、誰よりも不器用な形で、賢太は中野を“生かそう”としたのだ……なんて言ったら、朝子に「あいつがそんなこと考えてるわけないでしょ」と一蹴されてしまうだろうか。
「ちょっと人生辛い時に、ふとパパとママの作った映画を思い出すことがある。あの映画を思い出すと、なぜか少しだけ泣けてきて、少しだけ元気が出る」と蝶子が語っていたが、わたしにとっては『こんばんは、朝山家です。』が、まさにそんな作品になった。そんな作品に出会えたことこそ、“相変わらず”な日常のなかの“奇跡”なのかもしれない。
足立紳が自身の連載日記『後ろ向きで進む』をベースに執筆したホームドラマ。“キレる妻”と“残念な夫”という衝突不可避の夫婦が、罵倒と叱責、ときどき愛で、家族の難題を切り抜けていく。
■配信情報
『こんばんは、朝山家です。』
TVerにて、U-NEXT、Prime Videoにて配信中
出演:中村アン、小澤征悦、さとうほなみ、小島健(Aぇ! group)影山優佳、渡邉心結、嶋田鉄太、土佐和成、佐野弘樹、竹財輝之助、河井青葉、丸山智己、宇野祥平、松尾諭
脚本:足立紳
原案:足立紳・足立晃子『ポジティブに疲れたら俺たちを見ろ!!~ままならない人生を後ろ向きで進む~』(辰巳出版)
演出:足立紳、小沼雄一、安村栄美
チーフプロデューサー:山崎宏太
プロデューサー:寺川真未、宮本日奈美、加藤伸崇(S・D・P)、坪ノ内俊也(R.I.S Enterprise)
協力プロデューサー:足立晃子
ビジュアル撮影:浅田政志
タイトルロゴ:寺内暁
制作協力:S・D・P
制作著作:ABCテレビ
©ABCテレビ
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