『こんばんは、朝山家です。』最終話前にして衝撃展開 ある日突然消えた唯一無二の存在

人の命は、あっけないものだ。人は、突然死ぬ。そのとき、「もしも、ああしていたら……」と後悔をしても、その人はもう戻ってこない。何かを伝えることもできない。だからこそ、わたしたちは慎重になるべきなのだ。たとえ、些細な言葉や行動であっても、それが最後の記憶になるのかもしれないのだから。
『こんばんは、朝山家です。』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の物語をいつも明るく照らしてくれていた中野(松尾諭)の死は、そのことを否応なく突きつけてきた。賢太(小澤征悦)にとって、そして朝山家にとって、唯一無二の存在だった彼は、ある日突然消えた。まるで、大輪の花火が一瞬で散るように。「中ちゃん、死んだって……」という賢太の現実味のない言葉が、今も頭のなかにこびりついて離れない。
中野の死因は、具体的には明かされていないが、タイミング的に自死の可能性が高いだろう。賢太が最後に中野に会ったとき、彼は痛烈な影を纏っていた。しかし、賢太は他人のことを注意深く観察するタイプではないので、それに気づけなかった。「もう少し、金を貸してもらわへんか?」「お袋が危ないらしいで、帰ってやりたけど、金ないし」と言われたときも、いつものせびりだと思ったのだろう。他人に甘えて生きている中野に、息子の晴太(嶋田鉄太)の将来を重ね、焦った部分もあったのかもしれない。賢太は「そんな金、身内から借りりゃいいじゃん。甘えるんだったら、とことん身内に甘えて、縁切られてから他人頼れよ」とおそらく初めて中野を突き放した。
もちろん、賢太が中野にお金を貸す義務はない。友人だからといって、すべてを背負う必要はないし、お金の貸し借りともなれば慎重になるのは当然だ。多少厳しい言葉になってしまったかもしれないが、賢太の行動は間違っていなかったと思う。ただ、もしやり直せるのなら、中野の“いつもとは違う”様子に気づいてあげてほしかった。そして、追い討ちをかけるように、「だから仕事ねぇんだよ」「誰かが何とかしてくれえるって、いまだに思ってんだろ?」などと言うべきではなかった。
友人として、厳しいことを言わなければならないときはある。でも、そういうときこそ、しっかりとタイミングを見極めなければならない。中野の死で、賢太が自責の念に駆られる必要はないが、反省をしたほうがいいところはある。
個人的な話になるが、わたしは小さいころから母に「夢中になれるものを見つけなさい」と言われて育ってきた。「すごく悲しいことがあったとき、それがあなたを救ってくれるから」と。当時はいまいちよく分かっていなかったが、母が病気で入院したときに、書くことがわたしを救ってくれた。書いているときだけは、不安も悲しみもすべて忘れられる。そのとき、「これが、母の言っていたことだったんだ……」と思った。
賢太も、夢中になれること(=映画撮影)があったから、中野の死の悲しみと向き合いすぎずにすんだのだと思う。「俺は、粛々と撮影をした。中ちゃんの死が、ほとんど悲しくなかった。いや、まったく悲しくないような気がする。撮影中で忙しいから、悲しいと心が思わないのだろう。そうに違いない」と賢太は言っていた。
大人がよく「夢中になれるもの」を探させようとするのは、「それがあるほうが楽しいから」だけではない。きっと、“悲しみを乗り越えるための道具”を子どもに持たせたいからではないだろうか。朝山家の子どもたちは、これから何を見つけ、夢中になっていくのだろう。野球が好きなのに、部員が嫌で続けられなくなってしまった蝶子(渡邉心結)には、思う存分野球ができる環境を見つけてあげてほしい。晴太は転校騒ぎでそれどころではないかもしれないが、いつか心の底から「楽しい!」と思える居場所に出会えることを願っている。
足立紳が自身の連載日記『後ろ向きで進む』をベースに執筆したホームドラマ。“キレる妻”と“残念な夫”という衝突不可避の夫婦が、罵倒と叱責、ときどき愛で、家族の難題を切り抜けていく。
■放送情報
『こんばんは、朝山家です。』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:15〜放送
TVerにて、放送終了後見逃し配信
U-NEXT、Prime Videoにて全話配信
出演:中村アン、小澤征悦、さとうほなみ、小島健(Aぇ! group)影山優佳、渡邉心結、嶋田鉄太、土佐和成、佐野弘樹、竹財輝之助、河井青葉、丸山智己、宇野祥平、松尾諭
脚本:足立紳
原案:足立紳・足立晃子『ポジティブに疲れたら俺たちを見ろ~ままならない人生を後ろ向きで進む~』(辰巳出版)
演出:足立紳、小沼雄一、安村栄美
チーフプロデューサー:山崎宏太
プロデューサー:寺川真未、宮本日奈美、加藤伸崇(S・D・P)、坪ノ内俊也(R.I.S Enterprise)
協力プロデューサー:足立晃子
ビジュアル撮影:浅田政志
タイトルロゴ:寺内暁
制作協力:S・D・P
制作著作:ABCテレビ
©ABCテレビ
公式サイト:https://www.asahi.co.jp/asayamake/
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