『ぼくほし』『宙わたる教室』など“宇宙”を題材にした作品なぜ増加? 秩序がもたらす癒やし

近年、宇宙を題材にしたフィクションが増えている。
2020年~2022年に連載された魚豊の漫画『チ。―地球の運動について―』(小学館、全8巻)は、中世ヨーロッパを舞台に、地動説の研究に命を賭けた者たちの物語。漫画ファンの間では広く知られた作品だったが、2024年~2025年にアニメがNHKで放送されたことによって、より幅広い層に注目される作品となった。
2023年に刊行された伊予原新の小説『宙わたる教室』(文藝春秋)は定時制高校を舞台にした、様々な事情を抱えた生徒たちの群像劇。生徒たちは主人公の理科教師が顧問を務める科学部で「火星のクレーター」を再現する実験をおこない、研究成果を学会で発表することも目標とする。本作は2024年にNHKでドラマ化され、大きな反響を呼んだ。
そして、現在放送されている大森美香脚本の連続ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系/以下『ぼくほし』)は、スクールロイヤーとして私立高校に派遣されることになった弁護士・白鳥健治(磯村勇斗)が主人公の異色の学園ドラマ。健治は弁護士として学校内で起こる生徒と教師のトラブルと向き合っていく一方、天文部の顧問として生徒たちとの親交を深めていく。

他にも、2020年のコロナ禍を舞台に天文部で活動する高校生たちの姿を描いた『この夏の星を見る』(KADOKAWA)は2023年に辻村深月が刊行した青春小説で、今年の夏に山元環監督の手で映画化。そして、9月8日からNHKの「よるドラ」枠で、元天文部の女性4人が、超小型人工衛星を作ることで宇宙を目指そうとする連続ドラマ『いつか、無重力の宙で』が放送される。
近年は、イーロン・マスク、ジェフ・ベゾスといった実業家が次のフロンティアとして宇宙開発に対し強い関心を向けている。2021年には実業家の前澤友作が民間人飛行士として宇宙に行ったことが話題になったが、かつてはSFの世界だった宇宙を舞台にしたビジネスは近い将来、夢ではなくなると言われている。
その意味で宇宙は世界のトレンドと言えるが、イーロン・マスクたち世界の実業家が見ている宇宙と、近年の日本で作られているフィクションに登場する宇宙とでは、見ているものが異なるように感じる。
たとえば『チ。』の主人公・ラファウは、地動説を研究したことで、異端者として弾圧されることになるのだが、彼が地動説に惹かれたのは、天動説で語られる天体の動きよりも「合理的で美しい」と思ったからだ。
『宙わたる教室』最終回後もじんわりと心に残る温かさ 科学部が“らしさ”全開で掴んだ世界
あぁ、終わってしまった。物語の最後を見届けた後に、こんなにも喪失感に包まれたのはいつぶりだろうか。しかも、その喪失が心に寂しさだ…一方、『宙わたる教室』の天文部の生徒は、火星特有の花びらのように広がるランパート・クレーターの再現実験をおこなうために火星の重力と土を再現し、教室に火星を作り出そうとする。時代は『チ。』とは異なり現代だが、生徒たちもまた科学的な検証と実験を繰り返すことで、火星を作り出そうとしており、科学的な態度を貫くこと自体が、彼らにとっての大きな喜びとなっている。





















