『バレリーナ』はしっかり『ジョン・ウィック』だった 忠実に守ったシリーズ伝統の魅力

『バレリーナ』は『ジョン・ウィック』だった

 家族を殺された孤独な少女イヴ・マカロは、数奇な運命から秘密組織「ルスカ・ロマ」に引き取られ、一級の暗殺者に鍛え上げられる。そんな彼女の前に、かつて家族を奪った謎の教団が現れて……今日も今日とてLet’s復讐!

 殺し屋ビジュアル系大活劇、まさかの復活! あの『ジョン・ウィック』シリーズ(2015年~)がまさかの再起動を果たした! 『バレリーナ:The World of John Wick』(2025年)は、スピンオフでありながら、今後は「本伝」になるかもしれない意欲作である。ここには確かにシリーズ伝統の魅力があった。

 では、『ジョン・ウィック』の魅力とはなんだろうか? すべての始まりである1作目と、そこからの変化を振り返ると分かりやすい。

 シリーズ1作目『ジョン・ウィック』は、圧倒的に格闘アクションだった。映画の最大の見どころは、射撃と功夫を合体させた“ガン・フー”であり、このガン・フーで暴れ回るキアヌ・リーブスを見せるために物語があったと言っていい。ギャングや殺し屋が出てくるが、裏社会のディテールは本物っぽさよりファンタジー感が強め……もっと言えば、一種のギャグであったようにすら思う。現実で殺し屋が暴れ回ると起きるであろう諸問題が、基本的にジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)の顔パスと謎のコインで片付いていたのだ。これはある種の「どういうことやねん」ユーモアであり、同時に作り手から観客への「そこは気にせんでください」という割り切りの注意喚起であったように思う。

 しかし、シリーズを重ねるごとに、『ジョン・ウィック』には、もう一つの魅力が仕上がっていく。もともと不条理ギャグ的な扱いだった裏社会の謎ルールを掘り下げていったのだ。そのため話も複雑になり、上にあったようにユーモアは少しずつ薄くなったが、予算が増えたおかげもあって、裏社会のファンタジー感と、そのファンタジー感を担保する「美術」=「ビジュアル」がド派手にパワーアップ。ギラギラと輝くネオンや、美麗なファッションの殺し屋たち、ド派手なパーティーなどがシリーズの個性となっていった。乱暴な話、ギラギラネオンとダンスミュージックが鳴る中で、オシャレなファッションでバチバチに戦えば、それだけで『ジョン・ウィック』になると言っても過言ではないかもしれない。

 “アクション”と“ビジュアル”、この二つが『ジョン・ウィック』の魅力として完成した。しかし、主演のキアヌが還暦間近なこともあって、シリーズは『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023年)で打ち止め。これで終幕かと思われたが……どっこい、こうして蘇ったわけである。

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