『TOKYO MER』で鈴木亮平が確立させた“リーダー像” 離島医療のリアルな描写も光る一作に

『TOKYO MER』で光る鈴木亮平のリーダー像

 しかし、喜多見の魅力は技術面だけではない。極限状況でも声を荒げず、患者にも同僚にも柔らかい言葉遣いで接する姿勢。それは、人間的にも成熟したキャラクターの証だ。

 公開中の『南海ミッション』で、喜多見は「一歩引いて見守る」リーダー像を見せた。諏訪之瀬島で火山が噴火し、79名の島民が取り残される極限状況。噴石が飛び交い溶岩が迫る中、喜多見は直接的な指示ではなく、南海MERの各メンバーの判断を尊重する姿勢を貫く。

 特に印象的だったのは、江口演じる「南海MER」のチーフドクター候補・牧志医師との関係だ。「平和が一番」が口癖で、出動要請のない日は釣りを楽しむ牧志。一見頼りなく見える彼が、東京の官僚とのやり取りの最中、突然「南部、北部に○人いて、持病がある人が○人」と島民全員の健康状態を詳細に語り始め、喜多見を驚かせる場面があった。

 喜多見は「迷っている時間も命を奪う」と決断の重要性を説きながらも、牧志に判断を委ねた。喜多見の芯がより太くなったことを感じた。

元離島住民から見た離島の共同体のリアルさ

 2019年から2023年まで沖縄・竹富島で暮らしていた筆者にとって、本作の離島描写はリアルだった。

  牧志が全島民の健康状態を把握している設定は、離島医療の本質を突いている。人口300人程度の島では、診療所の医師は1人。だからこそ医師と住民の距離が近く、カルテ以前に人間関係の中で健康情報が共有されている。

 また、医療従事者でなくても協力し合う姿は、モノも人も少ない離島の共同体を良く表現していた。玉山鉄二が演じる漁師の麦生が、本業のかたわら消防団員を務め、YouTuberとしても活動する。人口300人程度の竹富島では、1人が複数の役割を担うのは当たり前だった。限られた人数で島を運営するためには、誰もが多才だ。麦生の姿に、島で出会った多彩な人々の顔が重なった。

 北部に取り残された人たちが絶体絶命の状況に追い込まれたとき、喜多見と牧志が助けに現れたシーンは、特に感情が揺さぶられた。かつて見た島の人々の助け合いの精神を重ね、感極まって涙が止まらなかった。エンドロールで全国各地の僻地医療の現場写真が流れ、見覚えのある竹富診療所が映ったときは、作品制作陣の取材の深さを実感した。

 鈴木の徹底したプロ意識が、喜多見というキャラクターを作り出した。威圧的でない強さ、専門性と人間性の両立、チームを信頼し任せるリーダーシップ。喜多見像は、現代社会が求めるリーダーの姿そのものではないだろうか。憧れている子どもが多い事実も納得だ。自ら現場に飛び込む姿勢は、演じる鈴木自身の俳優としての在り方とも重なる。作品と向き合い、役と共に生きる。その姿勢が、多くの人に確かな感動を届けている。

参照
※1. https://www.leon.jp/peoples/295932?page=3
※2. https://www.oricon.co.jp/news/2400290/full/

■公開情報
劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜南海ミッション』
全国公開中
出演:鈴木亮平、賀来賢人、高杉真宙、生見愛瑠、宮澤エマ、菜々緒、中条あやみ、小手伸也、佐野勇斗、ジェシー(SixTONES)、 フォンチー、江口洋介、玉山鉄二、橋本さとし、渡辺真起子、鶴見辰吾、石田ゆり子
監督:松木彩
脚本:黒岩勉
配給:東宝
©2025 劇場版『TOKYO MER』製作委員会
公式サイト:https://tokyomer-movie.jp/
公式X(旧Twitter):tokyo_mer_tbs
公式Instagram:tokyo_mer_tbs
公式TikTok:tokyomer

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