ディザスター映画の最新系『TOKYO MER 南海ミッション』 人間ドラマとの絶妙なバランス

『TOKYO MER』新作はディザスター映画最新系

 TBS系日曜劇場『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』は、その人気の高さから、ドラマシリーズの最終回と直結する劇場版第1作を公開。興行収入44億円を記録し話題となった。それから2年の時を経て公開となった『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜南海ミッション』は、舞台を鹿児島と沖縄にまたがる海に浮かぶ島々に移し、『Dr.コトー診療所』(2022年)や『劇場版ラジエーションハウス』(2022年)などでも描かれた、都市と比べれば後回しにされてしまう離島医療問題にもメスを入れたものであり、今までの『TOKYO MER』の要素は活かしつつも、少し毛色の違った作品になっている。

 ドラマシリーズでは、“待ってるだけじゃ、助けられない命がある”をスローガンに、現場医療に特化し、ゆくゆくは全国展開させるモデルケースとして“TOKYO MER”が誕生。TOKYO MERの活躍によって、通常医療では助けられなかった多くの命が救われたのと同時に、危険な現場に医師が出向くデメリットが度々議論されてきた。

 劇場版第1弾では、YOKOHAMA MERが登場。全国展開が順調に進んでいることがわかったが、理念の不一致で衝突することに。MERといっても、その現場、現場で判断が委ねられており、そこには地域性や政治的駆け引きなど、様々なものが絡み合ってあっている。

 今作で登場する南海MERの場合は、離島が対象となっていることから、テロや大事故といった未曾有の事態が都市部と比べて発生しないため、チームスタッフたちも場数を踏んでおらず、緊急時における経験値が圧倒的に少ないという問題点から運営自体が危ぶまれている。

 そんな南海MERに監督兼サポート役としてTOKYO MERから派遣された喜多見(鈴木亮平)と夏梅(菜々緒)。今作の毛色が違っているのは、今まで通り、喜多見が中心人物でありつつも、一歩引いた目線で物語が展開されるからだ。つまりあくまでメインに描かれるのは、南海MERのメンバーたちの葛藤と決断であり、スピンオフとまでは言わないが、そこがドラマシリーズと直結していた前作と大きく異なる。

 喜多見と音羽(賀来賢人)の関係性や困ったときの白金(渡辺真起子)など、ドラマシリーズを観ていると深く理解できる点は多いが、単独作品としても問題なく観ることができる構成。

 ただ今作には大きなハードルがあった。それは新キャラクターたちがメインということもあって、今までのように回想シーンで物語の詳細を説明することができず、上映時間内でいかにキャラクターの奥行きを出すかが鍵となってくることだ。

 その点では、演技から登場人物の背景がイメージしやすいキャスティングだといえる。例えば江口洋介演じる牧志は、『救命病棟24時』(フジテレビ系)の進藤と『白い巨塔』(フジテレビ系)の里見の中間的キャラクターになっているし、常盤(高杉真宙)、知花(生見愛瑠)、武(宮澤エマ)も、それぞれが、このキャラクターだったら、こういった状況で、どう判断するのかをイメージしやすくなっている。業務的だったのが、純粋に命を救いたいというマインドに変化していく流れを自然に演出できていたのは、役者陣がいかに自分に与えられた役に向き合っていて、理解しているかが伝わってくるからだ。

 これはドラマシリーズや劇場版前作にも共通する部分ではあるが、改めてキャスティングの強さを感じた。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる