横浜流星の言葉は現代人も胸に刻む必要がある 『べらぼう』が突きつける“怒り”のその先

しかし、この「犬を食え」という話もまた、一橋治済(生田斗真)による、田沼政治への不満を焚きつけるために流された策略であったと描かれる。人はときに、誰が最初に言い出したのかもわからぬ噂や憶測に突き動かされ、怒りの群衆と化す。現代の私たちがSNSや情報の洪水の中で経験していることと、驚くほど重なる構図だ。

情報に怒り、意見を持つのは自由。だが、その示し方が本当に自分たちの声を届ける方法なのか。新之助の姿は、私たち自身に問いを突きつけているようにも思えた。そして、改めて痛感したのは、「余裕を失った人間ほど、過激にならざるを得ない」ということ。
蔦重は今日食べる米に困らぬ立場だからこそ、噂を流そうと暗躍している人の気配を冷静に観察できた。誰かが大きなうねりをあえて生み出そうとしている、そう客観視することは混乱する世の中においては特に大切になる。治済にもまた、彼なりの思いがあるのだ。それが私たちから見れば、理解のできない「義」だというだけ。

いつだって争いは相容れない「義」と「義」のぶつかり合い。だからこそ、正しく声を上げねばならないのだ。闇雲に感情を爆発させるだけでは、誰かの思惑通りに踊らされているだけということにもなりかねない。そんな広い目で状況を見つめなければと気づかされる。
新之助や長屋の人々も、もとから血なまぐさい野暮な争いなど望んではいない。飢えから解放されていたら、もっと冷静に穏やかに笑い合える日常を生きていたに違いない。だからこそ、人びとから笑う余裕を奪ってはならないのだ。笑いを忘れて、奪い合うことばかりに関心が向く社会は、人を人として生かすことができないのだから。

怒りに駆られる人間の危うさと、その怒りをどう形にすべきかという普遍的な問いを突きつけた今回の『べらぼう』。令和に生きる我々もまた、心に問いかけなければならない。その「わがまま」は、カラッと笑って振り返られる未来を選び取れるのかどうか、と。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK























