ドラマの最新トレンドは“決め台詞”? 『大追跡』遠藤憲一の「はうっ!」が見逃せない

『大追跡』決め台詞がドラマのトレンドに?

 この夏、俳優・遠藤憲一が新たな魅力を見せている。現在放送中のドラマ『大追跡~警視庁SSBC強行犯係〜』(テレビ朝日系)で演じるのは、警視庁SSBC捜査一課長・八重樫雅夫。肩書きだけを聞けば威厳あるリーダーを思い描くが、実際の八重樫はどこか抜けていて、場を和ませる存在だ。劇中で繰り返される「はうっ!」という奇妙な一言は、視聴者に強烈な印象を残している。強面俳優として数多くの悪役を担ってきた遠藤が、あえて脱力的な決め台詞で笑いを取る。そのギャップにこそ、彼のキャリアの厚みが表れている。

 遠藤といえば、Vシネマや刑事ドラマで極道役を重ねた“怖い顔”のイメージが強い。だが2009年の『白い春』(フジテレビ系)では、不器用ながら娘を思う父親役を演じ、その優しさが多くの人の心に残った。そして『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日系)の海老名敬では、強面でありながら小心というキャラクターで幅広い層から親しまれた。ここで確立したのは、見た目との落差から生まれる“愛されるギャップ”だ。視聴者は彼の強面を前提にしているからこそ、弱さやユーモラスな部分がより鮮やかに映る。遠藤自身も、長い時間をかけてその逆説的な魅力を自分の武器に変えてきた。

 『大追跡』の八重樫も、その延長線上にあるキャラクターと言えるだろう。捜査一課長という重責を担いながらもしばしば空回りし、場面ごとに「はうっ!」と声を上げる。その一言は計算された演技でありながら、観客の肩の力を抜かせるユーモアとして機能する。強面俳優が普通は発さない音に近いフレーズをあえて口にすることで、不協和音のような効果が生まれ、笑いと親しみを同時に引き出しているのだ。さらに、演出を手がける田村直己は『ドクターX』でも遠藤の魅力を掘り起こしてきた人物であり、今回もまたその持ち味を巧みに際立たせている。

 近年のドラマではいわゆる決め台詞が再び注目を集めている。『半沢直樹』(TBS系)の「倍返しだ!」や『ドクターX』の「私、失敗しないので」は、社会現象となるほどの浸透力を持った。そして『放送局占拠』(日本テレビ系)で櫻井翔が放った「嘘だろ」は、物語の転換点で視聴者の驚きを代弁するフレーズとして機能し、SNSで大きく広まった。短く、覚えやすく、繰り返される言葉は、視聴者の共感や驚きを瞬時に共有させる。決め台詞が再び重要視されているのは、ドラマが物語の枠を超えて拡散される時代を反映しているのだろう。

 その文脈の中で、遠藤の「はうっ!」はユニークな立ち位置にある。シリアスな台詞ではなく、音に近い響きだからこそ誰もが真似しやすく、コミカルな余韻を残す。しかも、強面の遠藤がそれを発するというギャップが、印象を一層強くしている。決め台詞がキャラクターを象徴し、作品の合図のように機能することを考えれば、「はうっ!」は現代的なトレンドをしっかりと捉えていると言えるだろう。

 もちろん、決め台詞は俳優にとって諸刃の剣でもある。印象が強すぎるあまり、その言葉やイメージに縛られてしまう危険がある。しかし遠藤は、悪役から父親役、そして愛されキャラまで幅広い役を演じ分けてきた。その蓄積があるからこそ、一つの台詞に収まりきらない多面性を示し続けられる。むしろ「はうっ!」は、遠藤憲一という俳優の幅広さを示す象徴にすらなっているのは実に頼もしい。

 『大追跡』での八重樫雅夫は、ただのギャグキャラではない。彼の姿を通して、強面俳優としてキャリアを築いた遠藤が、いまや国民的な親しみを持たれる存在へと変貌した軌跡が見えてくる。決め台詞が時代のトレンドだとすれば、その真ん中に遠藤憲一がいる。そして同時に、彼はそれを超えて、自らのキャリアを軽やかに更新している。重さと軽さ、威厳とユーモア。その両方を併せ持って放たれる「はうっ!」は、彼の俳優人生の真髄を映し出す一言なのかもしれない。

『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』の画像

水9ドラマ枠『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』

2009年に警視庁に新設された分析・追跡捜査の専門部隊「SSBC=捜査支援分析センター(Sousa Sien Bunseki Center)」を舞台に、そこを取り巻く人間模様を描く。

■放送情報
『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』
テレビ朝日系にて、毎週水曜21:00~放送
出演:大森南朋、相葉雅紀、松下奈緒、伊藤淳史、髙木雄也、足立梨花、丸山礼、野村康太、佐藤浩市、遠藤憲一、光石研ほか
脚本:福田靖
監督:田村直己、豊島圭介、小松隆志
ゼネラルプロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)
チーフプロデューサー:黒田徹也
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、目黒正之(東映)
音楽:沢田完
制作:テレビ朝日、東映
©テレビ朝日・東映
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/daitsuiseki/
公式X(旧Twitter):https://x.com/daitsuiseki2507
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