『クレヨンしんちゃん』がインドで大人気 激変するインドアニメ市場成功の秘訣とは?

『クレヨンしんちゃん』インド市場成功の秘訣

『クレヨンしんちゃん』インドにおける過去・現在・未来……

 『チンプイ』や『キテレツ大百科』などの藤子作品の受け皿的存在であり、『ど根性ガエル』や『こちら葛飾区亀有公園前派出所』といった、買い付け担当者の個性が表れている絶妙なラインナップを放送する、子ども向けケーブルチャンネル「ハンガマTV」で2006年から放送開始されたのがはじまり。

 『クレヨンしんちゃん』といえば、日本においても親が子どもに見せたくないアニメの常連。とくに1990年代は、今では絶対に放送できないセリフや描写に溢れていた。容姿いじりやジェンダー差別、家庭内暴力に繋がるとされていたが、時代の流れによって、年々マイルドになってきてはいる。しかし放送開始された2006年といえば、まだその余韻は確実にあったことから、インドにおいてもたびたび議論の的になっており、放送休止に追い込まれたこともあった。

 今でも保守的な親からはアダルトアニメという認識で、子どもに見せないように「ハンガマTV」自体をロックしている家庭もある。ただ、そういったことも含めて注目が集まったことが成功のきっかけといえるだけに、人気の根源は日本と近いものがあるように感じる。

 冒頭で触れたように、アニメというのは子ども向けというイメージだったこともあり、子ども向けルックな作品なのに、下ネタを平気で言う『クレヨンしんちゃん』は、かなりの衝撃だったのではないだろうか。良くも悪くもアニメのイメージを変えたといえるだろうし、何なら今のアニメ市場の土台を作った作品と言っても過言ではない。

 そんな『クレヨンしんちゃん』の新作映画がインドを舞台にしているというのだから、インドのアニメユーザーの間では、かなり盛り上がっている。

 インド市場向けに制作されたというよりは、制作陣が『RRR』(2022年)の日本ヒットに感化されたというのが大きな理由である。

 『クレヨンしんちゃん』の劇場版といえば、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード』(2003年)で『地獄の黙示録』(1979年)オマージュやスティーヴ・ブシェミをモデルとしたキャラクターが登場していたように、今までにも多くの映画オマージュ、パロディを行ってきたのだから、インド映画にたどり着くのが逆に遅かったぐらいだ。

 インド映画ネタでいえば、『PATHAAN/パターン』(2023年)を意識したようなシーンもあったが、同作のアクション監督ケイシー・オニールがスタントを担当していたという繋がりで『トップガン マーヴェリック』(2022年)ネタを入れているとしたら、かなりマニアックだし、街中チェイスはジャッキー・チェンやトニー・ジャー映画に見せかけて『Commando 2: The Black Money Trail(原題)』(2017年・日本未公開)だとしたら流石だが、それは偶然だろうか……。

 インドといえばゾウさんネタも使用されている。しかし以前のように下半身丸出しスタイルではなく、ズボンもパンツも履いたままで下品なシーンはほとんど存在しない。多くのアニメ作品がひしめき合う現在の市場において、『クレヨンしんちゃん』の作品個性を抑えてしまっていることや、着地点とエピソードの接続部分に疑問は残る。どこで魅力を見出していけるかは、今後の課題になるだろうが、謎に包まれているボーちゃんの素顔に迫り、奥行をもたせた点においては貴重な作品となった。

 今作は、当初予定されていた10月から前倒しで9月26日からインドでも『Shin chan: The Spicy Kasukabe Dancers in India(英題)』として公開が決定しており、英語字幕版のほかにヒンディー語、タミル語、テルグ語吹替えなども制作される。今までにも劇場版は何作か公開しているが、一番待遇が良いときている。さぁ、どこまで爪痕を残せるか見ものだ。

 ちなみに5月に公開された『クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』に続き、ヒンディー語版の野原しんのすけの声優はアニー・シャー(Ani Shah)が務めている。『呪術廻戦』の家入硝子役や『ベイビーガール』(2024年)でニコール・キッドマンの吹替えをしていたことも記憶に新しいが、しんちゃんの声優としては、まだ経験が浅いものの、評価は高いようだ。

 今作は歌唱シーンが多いこともあって、どのアーティストが吹き替えをするかも気になるところ。

 そもそも歌唱シーンのあるアニメ映画自体が多くないが、最近でいえば、Netflix映画『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』(2025年)のヒンディー語版では、I-POPアイドルグループ“W.i.S.H.”のリーとシムが歌唱シーンを吹替えていたように、今作の歌唱シーンをサプライズアーティストが吹替えをしているかも? と注目しているユーザーも少なくないはず。

 ぜひ、日本でもヒンディー語版を上映してもらいたい……。

■公開情報
『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』
全国公開中
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみほか
声の特別出演:賀来賢人、バイきんぐ
原作:臼井儀人(らくだ社)/『まんがクレヨンしんちゃん.com (https://manga-shinchan.com)』(双葉社)連載中/テレビ朝日系列で放送中
監督:橋本昌和
脚本:うえのきみこ
主題歌:Saucy Dog「スパイス」(A-Sketch)
配給:東宝
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2025
公式サイト:https://www.shinchan-movie.com/
公式X(旧Twitter):@crayon_official 
公式Instagram:@shinchan_movie
公式TikTok:@shinchan_movie

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