『ハンドメイズ・テイル』を最終章に向けて徹底総括 “ディストピア”が鳴らす現代への警鐘

『ハンドメイズ・テイル』最終章に向けて総括

 2017年、ドナルド・トランプが初めて米大統領に就任した年の4月に、ドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(以下、『ハンドメイズ・テイル』)シーズン1の配信が始まった。本作は配信当初から注目を集め、物議を醸しながらも、動画配信サービス発のオリジナルドラマとして初めてエミー賞の作品賞。さらに、主演女優賞・監督賞・脚本賞を含む主要5部門を制した。そして第二次トランプ政権が大暴れしている今、日本では8月8日からHuluでファイナルシーズンの配信が開始された。

THE HANDMAID'S TALE - “Exodus” - June and Moira execute their dangerous plan. Serena makes a big commitment. (Disney/Steve Wilkie)
THE HANDMAID’S TALE

 シーズン1配信時、あまりにも現実と地続きのディストピアに危機感を覚えながら本作を見守っていた視聴者も多いだろう。現実の状況はあれから悪化するばかりだが、『ハンドメイズ・テイル』の世界ではどのように物語が進み、フィナーレに向けてどのような決着がつくのだろうか。ここでは、『ハンドメイズ・テイル』のこれまでの物語を振り返りながら、シーズン6の行方を考えていきたい。

 『ハンドメイズ・テイル』の舞台は、架空の第二次アメリカ内戦によって成立したギレアド共和国。キリスト教原理主義の理念に根ざした全体主義国家だ。ギレアドでは少子化を解消するため、妊娠できる若い女性は「侍女」として司令官の家に派遣され、子どもを生む役割を強要されている。

THE HANDMAID'S TALE - “Exodus” - June and Moira execute their dangerous plan. Serena makes a big commitment. (Disney/Steve Wilkie)
ANN DOWD

 主人公のジューン(エリザベス・モス)は侍女として司令官のフレッド・ウォーターフォード(ジョセフ・ファインズ)のもとに派遣され、「オブフレッド(of Fred)」、つまり「フレッドのもの」という名を与えられる。家畜のように耳にタグを付けられ、子を成すために「儀式」と称して正当化されたレイプ同然の行為を強要される日々を送り始めるジューン。かつては出版社に勤めていたジューンだが、ギレアドでは女性に読み書きは許されておらず、極端に行動を制限された生活を送りながら、彼女は連れ去られた娘ハンナを取り戻し、ギレアドを脱出する決意をする。

 そんななか、同性愛者の侍女に対する理不尽な罰や政府高官のための娼館の存在、そして死刑にさえ値しない「不完全女性」と判断された女性たちが、コロニーと呼ばれる農場での強制労働と、侍女と同じく「儀式」を強いられていることなどを知ったジューンは、やがて打倒ギレアドを目指す侍女たちの反乱を率いるリーダーに。しかしあるとき思いがけずカナダに亡命することになり、葛藤しながらもギレアドの外から戦いを仕掛けていく。

ジューンが戦い続ける理由

THE HANDMAID'S TALE - “Promotion” - June disrupts the rebels’ plans. Commander Lawrence gains power and influence. (Hulu/Steve Wilkie)
MADELINE BREWER

 ジューンが戦う理由は「娘のハンナを取り戻すため」だ。シーズン2最終話で、ウォーターフォード家の運転手ニック(マックス・ミンゲラ)との間に産まれたばかりの娘ニコールを侍女仲間のエミリー(アレクシス・ブレデル)に託し、ギレアドに残ったのはそのためだった。しかし仲間たちとともに戦ううち、彼女の目標は「打倒ギレアド」に変化する。ハンナとの再会をあきらめたわけではないが、“ギレアドをぶっ潰す”ために彼女の行動は次第に過激になっていく。特にカナダに亡命した後のシーズン4では、燃え盛るような怒りをエネルギーにしてギレアドに立ち向かい、かつて侍女として仕えたウォーターフォード夫妻に恨みを晴らすために立ち回り、シーズンの最終話では衝撃的な行動に出る。ギレアドで徹底的に尊厳を踏みにじられたジューンは、カナダで多くの仲間とともに堂々と戦える状況になったことで、より大胆に、そして残酷になった。シーズン4以降のジューンがそれまで以上に過激に見えるのは、比較的安全なカナダにいる彼女がギレアドの基準で動くと、その異常さが浮き彫りになるからだ。ギレアドに対抗するために、ジューンは彼らのやり方でやり返すしかなかった。ギレアドは彼女を変えてしまったのだ。

ジューンの協力者たち

 ジューンが率いる反乱に欠かせなかったのは、彼女の周囲の男たちの協力だった。ウォーターフォード家の運転手だったニックはジューンを愛し、その愛ゆえにかなり危険な橋を何度も渡ってきた。司令官となりギレアドの中枢に近づいた彼は、今やジューンにとって反乱の成功を左右する重要な存在でもある。しかしギレアドは、秩序を乱す者はたとえ司令官であっても容赦しない。これまでジューンがどんなに無謀な計画を立ててもできる限りの協力をしてきたニックだが、上級司令官の娘である妻が妊娠している今、下手に動けば自分の立場が危うくなる危険もある。彼はジューンのためにどこまでできるのだろうか。

The Handmaid's Tale -- "Night" - Episode 301 -- June embarks on a bold mission with unexpected consequences. Emily and Nichole make a harrowing journey. The Waterfords reckon with Serena Joy’s choice to send Nichole away. , shown. (Photo by: Elly Dassas/Hulu)

 もう1人、ギレアド内のジューンの協力者として重要なのは、ローレンス司令官(ブラッドリー・ウィットフォード)だ。ジューンがウォーターフォード家の次に派遣された家の主人である彼は、飄々としていてなにを考えているのかわからない人物だが、エミリーたちの逃亡や52人の子どもたちをカナダに脱出させる「エンジェル・フライト」の手助けをした。ローレンスは建国当初の理念から外れていくギレアドに辟易していたが、愛する妻が自ら命を断つまで本気でギレアドを改革しようとしなかった。しかし妻の死とジューンとの出会いが彼を変えた。彼は亡命者をギレアドに呼び戻すための居住区「新ベツレヘム」を設立し、かつてジューンが仕えていたウォーターフォード家の妻セリーナ(イヴォンヌ・ストラホフスキー)を広告塔として、国際社会でのギレアドのイメージの向上と国内の改革を進めようとしている。もちろん彼とニックはお互いにジューンに協力していることを知っており、2人の連携も重要になってくる。

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