『ダンダダン』“HAYASii”ライブシーンが予想外の反響 アニオリ演出が引き出した作品の魅力

『ダンダダン』“HAYASii”が予想外の大反響

 異星人や妖怪が入り乱れる非日常を舞台に、あらゆるポップカルチャーを巧みに織り込んでいる『ダンダダン』。かつては漫画ファンの間で“元ネタ探し”を楽しむ通好みの作品だったが、今やアニメ化を機に国内外の視聴者を巻き込み、SNSを席巻している。そんな中、第2期第18話の「HAYASii」ライブシーンは、この作品のオマージュが持つ魅力とパワーを、これまで以上に鮮やかに見せつけた瞬間だった。

 ジジの中に潜む怪異・邪視を祓うため、星子と満次郎が招集したバンド「HAYASii」。名前はX JAPANのYOSHIKIの姓「林」に由来するとみられ、ビジュアルや演奏スタイルにも強い既視感がある。観客席にまで響くドラミング、艶やかなピアノの旋律に至るまで、視聴者の記憶を直接揺さぶる仕掛けが施されていた。作中では幽世に音を響かせる特別な力を持つ存在として描かれ、単なる一発ネタに終わらない必然性が付与されている点も興味深い。実はこのライブシーン、原作漫画では細部まで描かれていない。アニメ版では楽器の動きや照明、観客の反応などが丁寧に積み重ねられ、オマージュの面白さと音楽シーンの迫力が一層際立つ演出へと膨らんでおり、引き込まれた。

TVアニメ『ダンダダン』HAYASii「Hunting Soul」【lyric video】

 だが、この参照は予想外の反響を呼ぶことになった。放送後、YOSHIKI本人がSNSで著作権侵害の可能性に言及。「先に関係者に連絡した方がいいみたい」という一文が、ネット上に波紋を広げた。これまで『ダンダダン』のオマージュは、ファンへのサービスとして好意的に受け止められてきたが、今回の件はファンが盛り上がるきっかけにもなり得る一方で、著作権などの問題に発展する可能性を示した出来事だった。

 もっとも、ここで注目したいのは法律的な是非ではなく、このオマージュそのものが持つユーモアと巧みさだ。元ネタを知る人をニヤリとさせ、知らない人にもシーンの迫力や面白さがしっかり伝わる。その二段構えの設計こそ、『ダンダダン』のオマージュの真骨頂と言える。そもそも本作のオマージュは、ただ元ネタをなぞるだけではない。監督の山代風我は、原作の持つ世界観に合わせて、自身が影響を受けてきた映像表現を意識的にミックスしているという(※)。怪奇シーンでは、初期の円谷プロ作品への深い敬意から『ウルトラQ』や『怪奇大作戦』のエッセンスを取り込み、特にセルポ星人のシーンにはその影響が色濃く表れていた。

 一方、コメディパートでは、『木更津キャッツアイ』(TBS系)や『タイガー&ドラゴン』(TBS系)といった、2000年代の宮藤官九郎(脚本)×金子文紀(演出)のドラマに見られる、コメディとシリアスがテンポよく切り替わる演出が反映されている。こうした多彩な参照を原作の文脈に沿って取捨選択し、ひとつの映像世界へと融合させる手腕こそ、山代演出の持ち味だ。 この方法は、単なる模倣ではなく職人的手法でもある。たとえ視聴者の多くが違いに気づかなくても、制作過程そのものがコンセプトの一部となり、作品全体のトーンを支えている。オマージュを法的な危うさから遠ざけつつ、原作が持つリミックス精神を音楽面でも実現していると言えるだろう。

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