アニメスタジオのここが知りたい!
『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』公開記念 P.A.WORKS代表に聞く、創作哲学

「2030年代もオリジナル作品を作り続けられる制作会社でありたい」

――P.A.WORKSは現代を舞台にした作品を多く制作していますが、それは今の若者が抱える課題を考えて企画を作るところからきているのでしょうか?
堀川:その企画の立て方は、社内でも僕に限ったことだと思います。僕の場合は、今ある課題に対して、作品を通してどんな答えにたどり着けるかシミュレーションするのが楽しいんです。今、社会で起きていること、会社で起きていること、アニメーション業界で起きていることが一番リアルに感じられるので、それをアニメに置き換えて問いを立ててみるのが、僕なりのオリジナルの楽しみ方です。
――アニメ業界全体の課題と言えば、オリジナル企画を成立させることの難しさがありますよね。それでも、P.A.WORKSはオリジナル企画をコンスタントに作り続けています。その原動力はどこにあるのですか?
堀川:確かに今は、オリジナル作品を作りづらい状況です。アニメの制作費がどんどん上がっていますから、出資側からすると、当然オリジナルの方がリスクが高いわけで、そこは理解できる部分もあります。一方で、あまりに作品数が多くなりすぎていて、その需要になんとか応えていくことに疲れ切って、「僕らが作りたいものはこれなんだ」という初期衝動的なものが減少している気がします。オリジナルはストーリーも世界観もキャラクターも、全て自分たちで作り上げるものなので、制作カロリーは高い。その苦労をしてでも作りたいものがあるかどうかが大切ですが、今の状況が続くと、いざ作りたいと思ってもオリジナルの作り方をみんな忘れちゃうかもしれないと危機感を感じています。
ーーなるほど。
堀川:P.A.WORKSでは3年に1回会社のビジョンを出します。今までオリジナル作品をたくさん作ってきて、それが評価されているのだから、それが僕らのアイデンティティだよねという話をしています。原作もののアニメ化で大ヒットを狙う今の業界の大きな流れに対して、小さい会社ではあるけれど、異なる価値観を示したい、2030年代もオリジナル作品を作り続けられる会社でありたい、それを目指して今も動いているところです。そのために、オンラインでもいいから対話できる機会を作っていこうとしています。まず、企画立ち上げを牽引するために文芸部を新設しました。言語化に長けている文芸部のスタッフが中心になって、社内グループウェアを活用した対話の活性化を担ってもらっています。日常的にクリエイター同士が交流して、アイデアを共有できる環境づくりが狙いです。
P.A.WORKSのこれから

――P.A.WORKSは富山県に本社を構えておられます。今地方のアニメスタジオが増加傾向にありますが、老舗の地方スタジオとしてこの動きをどう見ておられますか?
堀川:何らかの事情で東京に行けない人もいますから、地方スタジオが増えるのはいいことだと思います。人材を長期的視点で育てるのであれば地方はいいと思います。東京は流動性が高いので、力をつける前に辞めてしまう場合も多いので。一方で、ある程度力をつけると、憧れのクリエイターのいる東京に行きたいと思う人も出てくるので、そういう人材を引き止めるには、この会社でしかできない何かやアイデンティティをしっかり持たなければいけません。そういう会社のアイデンティティみたいなものは、東京にいるときより意識しますね。

――家賃や人件費が抑えられるなど金銭的な動機だけではダメで、会社のアイデンティティのようなものが最終的に人を引き寄せていくわけですね。
堀川:アイデンティティも、トップダウンで言うだけではダメだと思っています。対話の中から自発的にこういうものが作りたいんだという話が出てきたときに、初めてみんな頑張れると思います。そういう内部の環境になるまでにまだ時間がかかると思っています。
――『不思議の国でアリスと』にはP.A.WORKSの作品の匂いが感じられます。そこには何らかの会社のアイデンティティのようなものが刻印されているのではと思ったのですが、いかがでしょうか。
堀川:篠原監督は、うちで長く監督をしているので、P.A.WORKSのカラーを知っているのが大きいと思います。僕自身、2018年に『さよならの朝に約束の花をかざろう』を作った後に一線を退くつもりだったんです。でも、なかなか人が足りないというのもあって。若いプロデューサーに、僕たちはこういう風に考えてオリジナルを作ってきたよという話をして、それを受けて若いプロデューサーがその個性を活かしながら作り始めているところです。そうやって彼らの考えるものをどんどん形にすればいいと思います。

――今後、P.A.WORKSが若手を育てるために、何を大事にしていきたいですか?
堀川:今、業界全体がすごく変わってきていて、雇用形態も昔と違いますし、給与の面でも今は一般企業との差もそんなにありません。以前よりも食べていきやすくなっているのはいいことですが、その分、将来どうなりたいのかという本人の意思はより問われます。やっぱり横並びでは面白いものは生まれませんから、強い探求心を持った人が出てきてほしいし、そういう人が中心になるべきで、そういう人が上を目指せる道を作れるかが大切だなと思っています。
■公開情報
『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』
8月29日(金)全国公開
キャスト:原菜乃華、マイカ・ピュ、山本耕史、八嶋智人、小杉竜一(ブラックマヨネーズ)、山口勝平、森川智之、山本高広、木村昴、村瀬歩、小野友樹、花江夏樹、松岡茉優、間宮祥太朗、戸田恵子
原作:『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル)
監督:篠原俊哉
脚本:柿原優子
主題歌:SEKAI NO OWARI 「図鑑」(ユニバーサル ミュージック)
アニメーション制作:P.A.WORKS
配給:松竹
製作幹事:松竹、TBSテレビ
©「不思議の国でアリスと」製作委員会
公式サイト:https://sh-anime.shochiku.co.jp/alice-movie/
公式X(旧Twitter):@alice_movie2025






















