『ちはやふる-めぐり-』の原点を振り返る “青春映画の金字塔”綾瀬千早=広瀬すずの物語

『ちはやふる-下の句-』

『ちはやふる-下の句-』から、ついにかるたクイーン・若宮詩暢(松岡茉優)が登場する。彼女と千早たち瑞沢高校かるた部は、競技かるたの聖地・近江神宮(滋賀県)で初の邂逅を果たす。本殿で勝利祈願のお詣りを済ませた千早らは、石段を下りていく。その際、「真ん中は神様の通り道だから」という理由で左右に分かれて歩く千早らの真ん中を、詩暢は歩いて上る。あたかも当然のように、神様の通り道を歩いて上る。自分はかるたの神様に選ばれた人間であるという、圧倒的強者のオーラを発散させながら、上る。
彼女のかるたは、“音のないかるた”と呼ばれている。何枚もまとめて「どっせーい」と弾く選手も多い中、彼女は狙った札の一点だけを綺麗にはじく。“肉まんくん”こと西田優征(矢本悠馬)らのように大きなリアクションで喜びを表現する選手も多い中、彼女は、勝って当然という顔で平然としている。
それでいて、服装はスノー丸というお気に入りのゆるキャラTシャツをジャージにインし、小学生のように水筒を斜め掛けし、靴だけはおそらく高校指定のローファーという独特のファッション・センスをしている。千早とはまた違う種類の残念美人である。瑞沢高校のような和装や、各高校のオリジナル部活Tシャツの選手が多い中、彼女のファッションは異彩を放っている。その浮き具合にも、彼女の孤高ぶりが際立つ。
個人戦で、千早と詩暢は対戦する。ゾーンに入った千早は、詩暢に健闘するが、破れる。だがもちろん、物語はこれで終わりではない。
『ちはやふる-結び-』

本シリーズの『上の句』と『下の句』を観て、競技かるたに興味を持った方は多いだろう。筆者は、「かるた教室 ○○市(居住地)」で検索をした。自分もやってみたくなったのだ。したがってシリーズ最終となる『ちはやふる-結び-』は、競技者になったつもりで観始めた。
映画は、いきなり日本一のカルターを決める名人戦・クイーン戦から始まる。クイーン戦で若宮詩暢の相手を務めるのは、綾瀬千早ではない。初登場の我妻伊織(清原果耶)である。千早は、この伊織に挑戦者決定戦で敗れていた。
またもクイーンとなった詩暢に、千早は「詩暢ちゃんおめでとう!」と声をかける。詩暢は冷ややかな目で一瞥し、「どちらさんですか?」と返す。この「敗者には興味はない」という絶対強者の冷たさに、観ているこちらは震え上がる。お蝶夫人に京女のいけずさをプラスしたこの若宮詩暢というキャラクターは、敵役として最強だ。
だが千早はそんな詩暢の京女仕草など気にせず、「来年こそ、ここで私とかるたしようね!」と笑いかける。主人公ならではの超ポジティブさ、あるいは、超鈍感さ。どちらだとしても、競技者としては必要な要素である。
一方、名人戦で勝利したのは、こちらも初登場の周防久志(賀来賢人)。名人戦5連覇を果たし、永世名人となった。強すぎて、もはや相手がいない状態である。
成功のカギは“原作”からの解放!? 『ちはやふる -結び-』、“映画”として満点の出来栄えに
人気漫画を映画化するとなれば「どのように映像にするか?」という課題は確実に付いて回る。とりわけ長く連載が続いている少女漫画の場合…千早の幼なじみでチームメイトである真島太一(野村周平)が、周防のいる東大かるた部に出稽古にでかけ、周防と対峙する。周防は、太一に、静かな口調で、「君はA級の人?」と問いかける。
先述のようににわか競技者気分で観ていた筆者は、そのシーンを周防と対戦する気分で観てしまった。それが間違いだった。周防の絶対強者の“圧”をまともに受け止めてしまい、冗談ではなく、吐きそうになった。周防が相手がA級かどうかを確認するのは、当然とも言える。A級未満の選手では、勝負以前にこの“圧”に耐えられない。筆者は、昔格闘技の選手だった頃のことを思い出した。そして、絶対強者と試合で当たったときのことを思い出した。その時の、吐きそうな恐怖とプレッシャーを思い出した。どうシミュレーションしても、周防に完膚なきまでにボコボコにされる未来しか見えず、気分が悪くなり、一度視聴を止めた。
だがこの周防は、かるたの神様が気まぐれで生み出したような天才ではない。映画では触れられていないが、彼がかるたを始めたのは大学に入ってからである。ほとんどのトップ選手が幼少期にかるたを始めていることを思えば、かなりの出遅れである。おまけに遺伝性の眼疾を抱えており、相当に視野が狭い。さらに症状は悪化しつつある。目にハンデがあるため、彼の強みは“耳の良さ”である。その耳を守るため、目が悪いにも関わらず、普段は耳栓をしている。雑音を聞かないためだ。彼にとって、かるたに関係ないすべての音は雑音だ。だから、聞き取れないぐらいに小さな声で話す。頭蓋内に響く自分の声さえ、彼にとっては雑音なのだ。
かるた、将来、恋(太一は千早に片思いしている)、あらゆるものに迷う太一に、周防は助言する。
「聞くべき音と、そうでない音。偏見、先入観、既成概念。そういうフィルターを通る前の、ありのままの音を聞く」
ありのままの音を聞く。ありのままの自分の声を聞く。そのありのままができないから、凡人は苦しむ。ありのままを当然にできるか否かが、天才と凡人の分かれ目なのだろう。この物語で言えば、名人・クイーンを狙える選手と、そうでない選手との。

主人公である綾瀬千早は、ありのままを、一切迷うことなく、選べる人間だった。ドラマ『めぐり』に登場する千早の教え子・月浦凪(原菜乃華)も、その種の人間の匂いを漂わせている。では、主人公・藍沢めぐる(當真あみ)はどうか。第5話において初めての試合を戦ったばかりの彼女が、初めてかるたの楽しさに気づいたばかりの彼女が、今後どのような選手になるのか、まったく想像もつかない。ある種「かるた超人たちの異能バトル」でもあった映画と違い、めぐるたちは等身大の高校生だ。今のところは。今後の展開が、本気で楽しみだ。
2016年から2018年にかけて公開された映画『ちはやふる』シリーズの10年後の世界を舞台にした作品。廃部の危機にある梅園高校・競技かるた部の藍沢めぐるが、顧問として赴任してきた大江奏と出会い、成長していく。
■放送情報
『ちはやふる-めぐり-』
日本テレビ系にて毎週水曜22:00〜放送
出演:當真あみ、原菜乃華、齋藤潤、藤原大祐、山時聡真、大西利空、嵐莉菜、坂元愛登、高村佳偉人、橘優輝、石川雷蔵、瀬戸琴楓、高橋佑大朗、藤枝喜輝、大友一生、漆山拓実、要潤、富田靖子、高橋努、波岡一喜、高嶋政宏、内田有紀、上白石萌音、広瀬すず、野村周平、矢本悠馬、森永悠希、佐野勇斗、優希美青
ショーランナー:小泉徳宏
監督:藤田直哉、本田大介、松本千晶、吉田和弘
脚本:モノガタリラボ(小坂志宝、本田大介、松本千晶)、金子鈴幸
プロデューサー:榊原真由子、巣立恭平、中村薫、平田光一
企画・プロデューサー:北島直明
チーフプロデューサー:松本京子
音楽:横山克
主題歌:Perfume「巡ループ」(UNIVERSAL MUSIC LLC)
制作協力:ROBOT、ウインズモーメント
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/chihayafuru-meguri/
公式X(旧Twitter):https://x.com/chihaya_koshiki























