『舟を編む』は“100年先”の人々にも届く 高明希CPに10年越しのドラマ化への思いを聞く

「100年先の人が観ても面白いと言ってほしい」

――好評をもって受け止められ、地上波での放送もされて改めて感じていることはありますか?
高:BSからの放送からまだ1年なので、視聴者の方の受け止め方に違いがあるといったことは感じませんが、観てくださる方の数が圧倒的に多いのはやはり感じました。そのなかで嬉しかったのが、BSでこのドラマに出会った方が、ドラマをフィクションとして終わらせずに、自分は自分の言葉をどう扱っているだろうか、自分の言葉はどう届いているんだろうかと、ご自身の今までを顧みてくださったことです。そして、自分だけで留めるのはもったいないと広めてくださっている方が多かった。私は“BS乗船員”と勝手に呼んでいるんですけど、BSで出会った方が、地上波放送に向けて、SNSでどんどん宣伝してくださったんです。みんなで“分かち合おう”と、このドラマがどんなドラマなのかを、言葉にして人に伝えようとしてくださった。それがとても嬉しかったです。
――SNSのいい面ですね。みんなが自分ごととして捉えられたのは、みどりちゃんが主人公だったことも大きいでしょうか。
高:そうですね。私自身が、原作を読んだ時に一番共感したのが、岸辺みどりでした。馬締も荒木さんも、松本先生も、圧倒的な存在なので、教師と生徒のような感じで読んでいました。みどりが登場した瞬間、目線がすとんと自分に合った感覚がありました。ゼロから知る感覚を、みどりを通して原作から受け止めたので、連ドラではみどりを主人公にしました。
――辞書作りは言葉を後世に残していく意義を持っています。映像作りにも共通した面があると思います。“残していく”という部分に、プロデューサーとしてどんな意識を持っていますか?
高:基本的に、私は作品をエンターテインメントだと思っているので、ドラマはその瞬間、時代を反映して、そのタイミングでその人の心に刺さるものであれば、将来ずっとは残らなくても構わないくらいに思っていたタイプなんです。
――今楽しんでくれた作品が、結果として残ってくれればなお嬉しいという気持ちだったと。
高:まさにそうです。未来を想定して作るというよりは、今のあなたたちと楽しさを共有したいと思って作っていました。でも、この作品に携わって、意識に変化がありました。初めて「100年先の人が観ても面白いと言ってほしい」と思いながら作ったんです。辞書編集部に取材をしながら、ひとりの人生以上に長いスパンで作られるものの話を聞いてしまったら、それを扱う以上、「刹那でいいなんて思えない」と。「色あせないでほしい」と触発されました。「この先も残ってほしい」「何度も観返してほしい」と考えながら作った、自分の中でも特別なドラマです。

――ドラマはエンタメだとのことですが、時代や世間へこちらから切り込んでいくことも必要だと思われることはありますか? プロデューサーとしてドラマを放つことの意義とか。
高:あまり自分の意義を立てすぎると、途端に説教くさくなりますよね。エンタメ作品を作りたいということは、私のベースから絶対にズレません。観る方に楽しんでもらうために、私たちは見えない汗をかくわけで、それに対して「自分たちはこれだけ汗をかいているんだ。こんな汗なんだ」ということを見せびらかすような行為はそぎ落とさなければいけない。その汗が見えることは押し付けになる気がします。
――押し付け。
高:視聴者として、私自身がそういったドラマを観ると、拒否反応を起こす人間なんです(苦笑)。それに、いつも揺らいでいる人間なので、押し付けはしたくない。自分がドラマのプロデューサーに向いていると思ったこともないですし、自分の言っていることが正しいとも思っていない。だから「どう思う?」といろんな人の話を聞きます。そうして出来上がった作品を出したときに、受け取った相手が何か自分自身に問える余白を持てるのがドラマだと思っています。答えになっているのか分かりませんが、私の「これを主張すべき」といったものを作ったら、すごくつまらないものになる気がします。
――ではプロデューサーとして、どんなところを見つめていけたらといった思いはありますか?
高:“人”です。描くのは結局人間。まずは私自身が、「そういう考え方もあるんだ」といった気づきや、どこに心が震えるか。私たちは個人ではなく人と人が共にいること、距離感を持つことで生きている。人を知ろうとすることが、私の制作意欲に繋がっているのかなとは思います。だからこそ、自分には考えつかない“想定外”を常に求めている気がします。たとえば、途中、お話した蛭田さんの“なんて”に出会うと、ゾクゾク!っとしますが、逆に自分の想定を超えてくれないものには、おそろしいほど興味が沸かないんです(笑)。だから、ドラマや映画作りを通して、自分のキャパをオーバーする出会いや、楽しさを求めているのかなと思います。
――これからもゾクゾク!っとするような楽しさを求めて。
高:はい、ゾクゾク、ワクワクを求めて。それを視聴者の方にも届けられたらと思います。
■放送情報
ドラマ10『舟を編む ~私、辞書つくります~』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
(毎週木曜24:35〜25:20再放送)
出演:池田エライザ、野田洋次郎、矢本悠馬、美村里江、渡辺真起子、前田旺志郎、岩松了、向井理、柴田恭兵ほか
原作:三浦しをん『舟を編む』
脚本:蛭田直美(全話)、塩塚夢(第5話共同執筆)
音楽:Face 2 fake
演出:塚本連平、麻生学、安食大輔
制作統括:高明希(AX-ON)、遠藤理史(NHK)、訓覇圭(NHKエンタープライズ)
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.jp/p/funewoamu/ts/GZ8RQ7PNJ1/




















