『あんぱん』眞栄田郷敦は“手嶌治虫”にぴったり! 嵩の漫画家への険しい道のりが始まる

『あんぱん』ついに眞栄田郷敦が初登場 

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』第95話で、嵩(北村匠海)と手嶌治虫(眞栄田郷敦)がついに対面する。しかし、それはドラマチックなものではなく、嵩の漫画家としての現在地を実感させる厳しい出会いとなった。

 銀座のカフェで健太郎(高橋文哉)といつものように話していた嵩は、隣のテーブルにいる人物に目が止まる。編集者との会話のなかに出てくる「お茶の水と天馬は……」のワードで、嵩はその人が手嶌治虫であることを確信。嵩は「あ、ああ……あ〜」と声にならない声を上げる。

 手嶌治虫は謙虚な好青年でありながら、漫画家として野心家な一面も持つ。これまで嵩は誌面に載る手嶌治虫の名前を「オサムシ」と読んでいたが、正確には「オサム」。嵩のように読み間違えをする読者のために、編集者が振り仮名をふることを提案するが、そのままでいいとして「日本中に手嶌治虫の名前をとどろかせられるように頑張りますよ」と今の漫画家としての人気に決しておごらない。医師からの漫画家への道という会話からは『ブラック・ジャック』、「次はね、少女漫画を描こうと思ってますよ。革新的な作品になると思います」という展望からは『リボンの騎士』をはじめとした数々の名作が、未来に生きる我々視聴者の脳裏には思い浮かぶ。

 いたたまれず店を出ようとする嵩は手嶌に声をかけられる。手嶌はほどけていた嵩の靴紐を結んでくれたのだ。呆然と手嶌を見つめる嵩。後に嵩は明るく光る月を見上げ、のぶに「手嶌治虫みたいだな」とつぶやいている。嵩はずっと漫画家・手嶌治虫を意識してきたが、当然手嶌は嵩の存在を知ることはない。言い方は少し厳しくなるが、それは月とすっぽん、雲泥の差ということになる。

 しかし、いせたくや(大森元貴)の言葉を借りれば、自分の弱さを認められるのは強い人であるという証拠。嵩は手嶌に会ってさらに膨らんだ嫉妬心を糧に、ようやく引き出しにあった退職願を出すことができた。安定を取るか、自由を取るか。登美子(松嶋菜々子)が表情を一変させるように、三星百貨店を辞めることは普通の選択ではない。ましてや今とは違って漫画がそれほど理解されてはいない時代。我々はその先の未来で嵩が『アンパンマン』を生み出すことを知っているが、のぶの「うちには分かる。ちっぽけな嵩が、いつか天才もびっくりするような作品を作るって」という励ましに、嵩が「根拠がなさすぎるよ、のぶちゃん」と返しているように、2人もまだ心のどこかで絵空事だと思っている、そんな段階だ。

 第20週「見上げてごらん夜の星を」でも、まだまだのぶと嵩が泥水をすするような生活は続く。登美子のような当時の世間一般から見れば、嵩の行動は自ら暗いトンネルに突き進んでいくようなものであったに違いないが、そんな遠回りの道の先に、太陽のように輝ける場所があると信じて。

 結果的に手嶌は嵩を自由という名の漫画家の道へ知らず知らずのうちに後押ししたことになるが、演じる眞栄田郷敦の優しく寛大で、それでいて漫画が大好きな大志を抱く人物像がぴったりであったことを特筆しておきたい。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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