眞栄田郷敦、『あんぱん』手嶌治虫役の必然性 北村匠海と重なる“ジャンルレス”な経歴

眞栄田郷敦、『あんぱん』手嶌治虫役の必然性

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』の放送も残すところ2カ月弱。第19週に入り、柳井嵩(北村匠海)の漫画家としての人生が少しずつ幕を開けようとしている。

 そんな嵩が嫉妬と羨望が入り混じった複雑な思いを抱く相手が、手塚治虫をモデルとした手嶌治虫だ。嵩がのぶのいない高知新報でスランプに陥っていたときから漫画家として活躍しており、第19週では『新宝島』が大きな話題を呼んでいる描写があった。三星百貨店の宣伝部でくすぶっている嵩の一歩先を行く存在でありながら、嵩よりも年下で余計に意識せざるを得ない人物だ。

『あんぱん』写真提供=NHK

 手嶌治虫を演じるのは、実年齢でも北村匠海の2歳年下の眞栄田郷敦だ。眞栄田も本作が初の朝ドラ出演だ。制作統括の倉崎憲チーフ・プロデューサーによれば、やなせたかしと手塚治虫の関係性を感じさせる俳優をあえてキャスティングしているようだ。

 眞栄田郷敦といえば、少年漫画の実写化作品に多く出演してきた俳優でもある。映画『東京リベンジャーズ』シリーズの三ツ谷隆役や『ゴールデンカムイ』の尾形百之助役など、現実離れした役柄をその体格や彫りが深い顔つき、強いオーラを放つ目力で、現実に落とし込む役割を担ってきた。

『ババンババンバンバンパイア』©2025「ババンババンバンバンパイア」製作委員会 ©奥嶋ひろまさ(秋田書店)2022

 現在公開中の映画『ババンババンバンバンパイア』では、主人公・森蘭丸の兄であり、最大の敵となる森長可を演じている。漫画やアニメだからこそ成り立つ金髪センター分けというビジュアルと鋭い目つきで最大の敵たる強い存在感を発揮している。漫画や小説の実写化で重要な役どころを演じることが多いという点では、北村と近いキャリアを積んできた俳優と呼べる。

 一方で、眞栄田はドラマでは映画とは異なる役柄を担ってきた。話題作の一つであるドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)で演じた岸本拓朗役は、物語序盤は地に足のつかない若者で、どこか飄々とした印象があった。そんな岸本が、過去に抱えた罪悪感に向き合い徐々に冤罪事件解決にのめり込んでいく姿は、退廃的でありながら岸本の心の成長を感じさせた。ドラマ『366日』(フジテレビ系)では、事故をきっかけに高次脳機能障害を患い、一部記憶喪失となる水野遥斗を演じた。自分の状況からくる不安感に襲われながらも、相手を思った行動を取る不器用な優しさが切ない役柄だった。『エルピス』『366日』どちらとも根底には穏やかさがある役柄だ。少年漫画の実写化では、相手を威圧する低く響きのある声色が、現実味のある作品では相手を包み込むような温かさを持つ。

『ババンババンバンバンパイア』©2025「ババンババンバンバンパイア」製作委員会 ©奥嶋ひろまさ(秋田書店)2022

 先述した『ババンババンバンバンパイア』では、敵として震え上がるほどの威圧感を出したかと思えば、意外な弱点があり小鹿のように逃げ出すというかわいらしい一面もあった。最終的に蘭丸と過去を振り返り、前を向けるようになる。シリアスとコメディのギャップを巧みに見せつつ、物語のテーマ性も担うといった八面六臂の活躍を見せている。

 本作では、史実の通り手嶌がアニメーション映画『千夜一夜物語』のキャラクターデザインと美術を嵩に依頼することになるようだ。手塚治虫といえば、若い頃から『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』などのヒット作を飛ばす天才漫画家である一方で、孤高の天才というより、温厚で作品への愛情が深いが故にこだわりが強いといった印象がある。眞栄田がこれまで見せてきたような近寄りがたい存在感と柔和さが漂う人間味がバランス良く表現されれば、人当たりは良くても、仕事となると厳しいといった手塚治虫の人間としての魅力が深く伝わる役柄になりそうだ。

 やなせたかしの漫画家・クリエイター人生に欠かせない手塚治虫という存在。眞栄田郷敦は、北村匠海にとっても新たな嵩としての表現を引き出す存在になるかもしれない。後半のキーパーソンとして眞栄田郷敦がどのように活躍し、それがキャリアにどう影響していくのかにも注目したい。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる