『魔法少女山田』を徹底考察 山田正一郎がかけた“魔法”という名の“永遠に消えない呪い”

テレビ東京の特別番組にして、フェイクドキュメンタリー作品、「TXQ FICTION」。その内容はタイトルの通りフィクション……つまりは作り物なのだが、趣旨を知らずに深夜に放送される通常のドキュメンタリー番組だと思い込んでしまうと、その不気味な要素が織り込まれた内容に混乱させられることになるはずである。
寺内康太郎、大森時生、皆口大地ら、最近のホラーブームを牽引する勢力の一角による、そんな「TXQ FICTION」シリーズは、第1弾『イシナガキクエを探しています』、第2弾『飯沼一家に謝罪します』と、目新しい恐怖を求める支持層を中心に、段階的に世間の注目度が増してきた状況にある。
このほど放送、配信された第3弾『魔法少女山田』もまた、これまで以上に期待が寄せられるシリーズとなった。また、今回は渋谷BEAMギャラリーで8月末まで開催される『恐怖心展』と連動。展覧会と共通する「恐怖心」をテーマに「魔法少女」を題材にしたところが、この第3弾ならではの特徴であるといえよう。
ここでは、そんな本シリーズ『魔法少女山田』が描いたものを解き明かしていくとともに、作中で最も恐ろしいとされるものを、さらに凌駕する、二段構えの解釈を提示しようと思う。
※本記事では、『魔法少女山田』のストーリーの全貌を明かしています。
ドキュメンタリー形式で架空の事件や怪異の謎を追っていくという趣向の本シリーズだが、『魔法少女山田』でも、それが踏襲されている。第1話で提示されるのが、「唄うと死ぬ歌」という都市伝説の存在だ。インターネット上では、そのメロディーや歌詞が話題となり、面白半分で歌う動画配信者まで出てきている状況が映し出される。
顔を出さずに声だけで登場する、貝塚陽太という若い男性は、いま都市伝説として流行しているその歌を、なぜか以前にも聴いたことがあるのだと、ドキュメンタリー制作者に主張する。この貝塚が独自の調査によって自身の記憶を掘り起こし、「唄うと死ぬ歌」の真相に迫っていくというのが、基本的な枠組みである。
第1回のメインとなるのは、貝塚が見つけたというTVのバラエティ番組『シンパイ刑事』の、ある放送回だ。この番組は実際に存在する『探偵ナイトスクープ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)型の内容で、お笑い芸人が「シンパイ刑事」として、一般の「依頼者」の“お悩み”を解決するという構成になっている。
そのお悩みの内容は、依頼者の妹の日下部萌花という19歳の女性が、なぜか「魔法少女」を見ただけで尋常ではないほど恐怖心を示してしまうというもの。その原因は、この時点では不明だ。貝塚が注目したのは、女性が番組のなかで恐怖を克服する催眠術を受けたとき、歌を口ずさんでいる箇所。それはやはり、貝塚の覚えている「唄うと死ぬ歌」だったのだ。
第2回では、謎の核心へと迫っていく。三田愛子というドキュメンタリー監督が2009年頃に撮ったという自主制作映画『魔法少女おじさん』のなかに、誰がこの歌を作詞・作曲したのか、答えが存在していたのである。ちなみに『シンパイ刑事』同様、このドキュメンタリー作品もまた、劇中劇のような扱いで提示される。
「魔法少女おじさん」というのは、当時41歳の男性・山田正一郎のことだ。彼は、アニメ作品のキャラクターような「魔法少女」のコスプレをして、勉強のサポートとなる授業をする様子を自ら撮影して動画サイトにアップしていた。閲覧数は少なく、いわゆる「過疎配信者」の部類。三田監督の取材により、山田は過去に元教師であったこと、いじめを止めようと生徒に説教をして、逆に立場が悪くなり退職したことを語る。
このドキュメンタリーでは、さらに山田と離婚して別の場所で暮らしていた妻が、娘とともに引っ越して姿をくらましたことや、学童保育として子どもたちに勉強などを教える活動をするものの熱意が伝わらなかったこと、そして教員に復帰しようとするも失敗し、打ちひしがれる姿なども映し出されていく。
第3回では、ついに貝塚が真実を暴き出す。だが、その衝撃の真実が視聴者に明かされる前に、もう一つの事実も判明することになる。それは、本作品で表示されるスタッフクレジットに、『魔法少女おじさん〜第2章〜』という作品タイトルが表れること。つまりわれわれがいままで見ていたのは、『魔法少女山田』という番組のなかの“劇中劇”としての『魔法少女おじさん〜第2章〜』だったのだ。






















