渡辺翔太「うわっ」を聴くためだけに劇場へ 『事故物件ゾク』で味わえる緊張と緩和の芝居

Snow Manの渡辺翔太が映画単独初主演を果たした『事故物件ゾク 恐い間取り』は、主演俳優の“特徴的な”絶叫をひたすら享受する作品だとばかり想像していた。というのも、バラエティ番組やSnow Man公式YouTubeチャンネルに出演する渡辺にはある口癖が頻出するからである。その多くは食レポ中。美味しいものを口に入れた瞬間、彼は「うわっ」を連発する。
『週刊ナイナイミュージック』(フジテレビ系)Snow Man出演回(2024年10月30日)では、公式YouTubeチャンネルで公開されている「Snow Man【ミシュランの名店】極上の焼き鳥をいただこう」が参考映像として取り上げられ、「食レポのレパートリー『うわっ』しかないのがかわいらしい」と紹介されていたほど。地上波でも認知された口癖「うわっ」は一度でも耳にすれば人懐こい響きが癖になる。この特徴的な口癖は実際それ自体がレパートリー豊富で、シチュエーションによってはフレキシブルな絶叫音にもなる。
Snow Man初冠番組『それSnow Manにやらせて下さい』(TBS系)に、近年、美容男子キャラを確立する渡辺が永遠の美しさを求めて各地をめぐる「不老不死ビビり旅」企画がある。第3弾にして同企画初の海外ロケで向かったタイでのビビり旅(2024年10月25日放送回)では、つばめの巣を探索するために厳重な警備で管理された孤島の洞窟に入った。通路は狭く、コウモリが羽ばたく洞窟内で疲弊する渡辺が絶叫する。大音響で繰り出される「うわあぁぁ」は、口癖「うわっ」の偏差くらいに理解すべきだろう。洞窟内に響いたこの大絶叫音「うわあぁぁ」こそ、単独初主演ホラー映画と相性抜群であり、したがって『事故物件ゾク 恐い間取り』全編でも頻出するだろうと予想していたのだ。
映画音響空間で享受する渡辺翔太の咀嚼音

なのに本作ではその絶叫音がまったく聞こえてこない。「うわっ」や「うわあぁぁ」の偏差になる音すら聞こえてこない。これはどうしたものかと唖然としながら画面を注視していると、きたきた本家本元の「うわっ」。ただしそれは食レポとも絶叫とも関係がない。関係がない上にただの一回しか発せられない。その貴重な音については後述するとして、では主演俳優に関するパーソナルな響きの数々がきらめく瞬間を期待した者としては一体、本作の何にときめきを感じたらいいのか?
渡辺演じる桑田ヤヒロが福岡から上京して「事故物件住みますタレント」となる本作の随所に注目した。ヤヒロが一件目に住むマンション室内では簡易的な座卓上でカップ焼きそばを食べ、物件から物件へ渡り歩く合間で逗留するネットカフェでもコンビニご飯、あるいは恋人にご馳走になるレストランのハンバーグプレートなど、複数回描かれる食事場面で顕著な音があることに気づく。よく耳を傾けなければ気にもとめないくらい細やかな音響処理を施された咀嚼音である。食レポで頻出する口癖も絶叫も聞こえないなら、その代わりに映画音響空間で豊かに響く渡辺翔太の咀嚼音がたっぷり享受できる。

ホラー映画が苦手な観客もこれで安心。ジャパニーズ・ホラーを長年牽引してきたトップランナー中田秀夫が仕掛ける各物件のホラー演出は、アルフレッド・ヒッチコック的なローアングルとハイアングルの空間的高低差で恐怖を助長する。一方で、ホラー場面の間にちょっとひと息入れるために配置される食事場面の画面上を満たす、とびきり優しげで人懐こい渡辺の咀嚼音が、とびきり恐いホラー映画を鑑賞する上で安全仕様にもなっているわけだ。特に本作クライマックス前に置かれたハンバーグ場面は、怒涛のホラー演出でこわばった観客の身体をいたわってくれるような、ブレイクタイム的咀嚼音としてほっこりできる。



















