渡辺翔太「うわっ」を聴くためだけに劇場へ 『事故物件ゾク』で味わえる緊張と緩和の芝居

渡辺翔太「うわっ」を聴くためだけに劇場へ

目配せとして置きにきた貴重な口癖「うわっ」

渡辺翔太のスター性は“瞬間的”な能力にあり 『なんで私が神説教』最終回後も続く余韻

2年間ニート生活だった主人公・麗美静(広瀬アリス)が高校教師となって“神説教”を繰り出す学園ドラマ『なんで私が神説教』(日本テレ…

 ほっこりということで言うなら、広瀬アリス主演の学園ドラマ『なんで私が神説教?』(日本テレビ系)でも緊張のドラマ展開を一時弛緩させる役割を渡辺が担っていた。渡辺が演じたのは、主人公・麗美静(広瀬アリス)が勤務する私立名新学園の先輩教師・浦見光。2024年1月期主演ドラマ『先生さようなら』(日本テレビ系)で演じた美術教師役から打って代わり、底抜けに明るい数学教師役だった。第9話、学園の存続を揺るがす状況の中、静が緊張の面持ちで帰宅すると、実家の食卓で浦見が先にご飯を食べている。もりもり食べ進め、白飯で口をいっぱいにして何とも愛らしい。

 静が「何でいるんですか」と聞くと、ご飯が口から溢れる浦見が「%#&…静先生も%#&…」と聞き取れない言葉で懸命に答える。「静先生」前の「%#&」は「うわっ」とも聞こえる。最終話を前に緊張が持続していたことをつかの間忘れさせてくれる、この多幸感。

 上述したハンバーグ場面も同様、差し迫った戦いの前の緩やかな多幸感を醸す演出は、ハワード・ホークス監督の傑作西部劇『リオ・ブラボー』(1959年/ラストの激戦前に歌手でもある俳優たちが歌唱を披露する楽しげな場面)など、古典映画の時代から常套手段でもある。優れた(映画)作品には必ず緊張と弛緩のバランス感覚がある。俳優の演技も同じこと。その意味で渡辺はどんな出演作でもコメディリリーフまで確実に演じられる俳優である。『なんで私が神説教?』はしかも渡辺のコミカルな口癖「うわっ」がおそらくドラマ作品内で初めて耳にできた記念すべき作品。第1話で静のやつれた顔を覗き込んで「うわっ」。第2話では静がプリクラを撮ったことを意外そうに「うわっ」。同じ口癖的台詞でも微妙に抑揚が違ってその偏差が楽しめる。

 ここで『事故物件ゾク 恐い間取り』に話題を戻すと、では本作でたった一度だけ耳にできる「うわっ」はどの場面で響くか? タレントとしてキャリアをスタートしたヤヒロにとって初仕事がCM撮影のエキストラだった。撮影準備中、ヤヒロが浜辺で待機していると、そこへメインキャストが入る。それを見たヤヒロがリアクション。「うわっ、亀梨和也だ!」。前作『事故物件 恐い間取り』(2020年)の主演俳優・亀梨和也が本人役でカメオ出演しているのだが、この「うわっ」はさすがに確信犯的である。それだけに主演俳優への当て書き的台詞が、ここぞとばかりに“しょっぴー印”で画面上に署名される。確信犯的であり、署名的であり、なおかつ主演俳優のパーソナルでバラエティな目配せとして置きにきた感じがする。この貴重な「うわっ」一音を聴くためだけに劇場に足を運ぶ贅沢だって、せっかくの単独初主演映画なら許されるだろう。

■公開情報
『事故物件ゾク 恐い間取り』
全国公開中
出演:渡辺翔太、畑芽育、山田真歩、じろう(シソンヌ)、加藤諒、金田昇、諏訪太朗、佐伯日菜子、ますだおかだ、なすなかにし、河邑ミク、松原タニシ、大島てる、田中俊行、亀本ゆず、笹原妃菜、櫂作真帆、森直子、笹原妃栞、正名僕蔵、滝藤賢一、吉田鋼太郎
原作:松原タニシ『事故物件怪談 恐い間取り』シリーズ(二見書房刊)
監督:中田秀夫
企画・配給:松竹
制作プロダクション:松竹撮影所
©2025「事故物件ゾク 恐い間取り」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/jikobukken-movie/
公式X(旧Twitter):https://x.com/jikobukken2025
公式Instagram:https://www.instagram.com/jikobukken2025/
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