『DOCTOR PRICE』はただの医療ものではない “職業=医者”のシビアな現実に切り込む

『DOCTOR PRICE』が描く医者のシビアな現実

鳴木の在り方に見る、いち職業人としての医師の葛藤と複雑さ

 ところで、鳴木が惹かれずにはいられない存在であればあるほど、彼の行動の裏にある信念にも目を向けたくなるのが人情というもの。そもそもなぜ、鳴木は医師という肩書きを捨て、このようなビジネスに身を投じたのか。物語はしだいに鳴木自身の過去にも迫っていく。

 実のところ、鳴木がこのビジネスに乗り出した理由は単なる金儲けだけではない。実は鳴木の父親・将成(林泰文)も医師であり、3年前、ある医療過誤の責任を一身に背負わされた末に自ら命を絶っていた。鳴木の真の目的は、商品として売り込む医師たちを媒介に医療業界の裏側に切り込み、隠された医療過誤の真相を追うこと、そして父の死の真相を突き止めることなのである。

 しかし当然ながら、そんな彼の存在を面白く思わない人間もいる。業界の歪みに加担し、安穏と利益を貪ってきた者たちにとって、力づくで真実をあぶり出そうとする鳴木の動きは危険要素にほかならない。彼を排除しようとする力も、水面下で静かに動き出しているのだ。

 第2話は、そんな各々の思惑が静かに交錯し始める重要な回である。極東大学病院のパーティー会場に赴いた鳴木は、一堂に会した幹部医師らに堂々と向き合い、「見つけたいんです。父を死なせた犯人を」と率直な思いを告げる。それは鳴木なりの宣戦布告であり、自らに課した使命を改めて胸に刻むための独白でもあったのだろう。一方で、鳴木の同期・依岡(北山宏光)は、院長・天童(篠原涼子)から呼び出されていた。鳴木が何を企んでいるのか、その真意を探れというのだ。医師としてではなく、戦略家として再び表舞台に立った鳴木の存在が、医療業界の内部にさざ波を起こし始めている。

 多くの医療ドラマにおいて、医師という職業は、使命感や献身といった理想的なイメージとともに描かれがちだ。しかし本作は、職業人としての医師のシビアな現実を真正面から描いている。主人公・鳴木が持つ多面性はまさしく、理想と現実の狭間で揺れる医師の複雑さを体現しているようなものかもしれない。医療業界の理不尽や不正に対して果敢に切り込む改革者としての姿。そして、亡き父親の名誉を守るために真実を追い求める、健気な息子としての在り方。

 第2話終盤にて、鳴木は何者かが父親・将成に罪をなすりつけたと思われる不自然な看護記録を発見する。そして、7月27日に放送された第3話では、将成と共に件の手術に参加していた看護師・安藤佳恵(大西礼芳)が手術後に看護記録を書き直していたことが新たに判明した。

 徐々に浮かび上がる事実の断片一つひとつに冷静な目で向き合い続ける鳴木。その姿になぜか心がざわめくのは、彼が単なる正義の味方でも復讐者でもなく、善悪のどちらにも容易に傾かない、複雑な存在だからなのだろうか。やがてすべての真実が日の目を見るとき、鳴木はどのような決断を下すのか。正義とは何か、誰のためにあるのか。その答えが問い直される瞬間が、確実に近づいている。

『DOCTOR PRICE』の画像

DOCTOR PRICE

同名漫画シリーズを原作とした医療サスペンスドラマ。元医師の主人公・鳴木が狙うのは、病気を抱える”患者”ではなく、転職したい”医師”。医療業界に潜む“悪”を裁き、大金を巻き上げる“ダークヒーロー”の姿を描く。

■放送情報
『DOCTOR PRICE』
読売テレビ・日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~放送
出演:岩田剛典、蒔田彩珠、三浦貴大、成海璃子、北山宏光、林泰文、坪倉由幸、ユースケ・サンタマリア、篠原涼子
原作:原作・逆津ツカサ/作画・有柚まさき『DOCTOR PRICE』(双葉社 アクションコミックス)
脚本:小峯裕之、本田隆朗
演出:山本大輔、木村ひさし
音楽:河野伸
主題歌:Omoinotake「フェイクショー」(Sony Music Labels)
チーフプロデューサー:中間利彦
プロデューサー:多鹿雄策、髙橋亜美花(スタジオブルー)、平体雄二(スタジオブルー)
制作協力:スタジオブルー
制作著作:読売テレビ
©︎読売テレビ
公式サイト:https://www.ytv.co.jp/doctorprice_drama/
公式X(旧Twitter):https://x.com/doctorprice_ytv
公式Instagram:https://www.instagram.com/doctorprice_drama/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@doctorprice_drama

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