『DOCTOR PRICE』はただの医療ものではない “職業=医者”のシビアな現実に切り込む

7月6日より放送がスタートしたドラマ『DOCTOR PRICE』(読売テレビ・日本テレビ系)は、『漫画アクション』(双葉社)にて連載された、逆津ツカサ原作・有柚まさき作画の同名漫画シリーズを原作とする医療サスペンス。医療とビジネス、正義と欲望の狭間で揺れ動く登場人物たちの姿が話題を呼んでいる。(※以下、ネタバレを含みます)
相手の欲望や弱みを見極めて盤面を支配するダークヒーロー・鳴木
第1話の冒頭から強烈なインパクトを放つのが、主人公・鳴木金成(岩田剛典)の大胆な行動だ。3年前、極東大学病院の医師だった鳴木は、後輩・葛葉(阿部顕嵐)に対して執拗なパワハラを行っていた指導医・馬場(濱津隆之)をモップで殴打するという前代未聞の事件を起こす。一見すれば突発的な暴力に見えるが、実はこれは鳴木が緻密に練り上げた計画の初手にすぎなかった。
病院幹部らが一堂に会する裁きの場で、鳴木は馬場のパワハラを証明する録音データがあるとカマをかけ、みごと馬場本人にパワハラを自白させることに成功。病院の弱みを握った鳴木は懲戒解雇を逃れ、退職金と功労金を得て病院を去る。その後、事務スタッフの夜長亜季(蒔田彩珠)と共に立ち上げたのが、医師専門の転職エージェント「Dr.コネクション」。そう、鳴木が第二のキャリアとして選んだのは、転職を希望する医師に「値段」をつけて病院相手に売りさばくという、医師の価値を商品化するビジネスだ。医師を1人紹介するごとに、仲介料として平均300万円が動く世界。命を救う医療現場から一転、金と欲望が飛び交うスリリングな展開が幕を開け、視聴者は一気に物語へと引き込まれていく。
そして、鳴木が極東大学病院を去って3年が経つ現在。今日も彼のオフィスには、転職を希望する医師たちが続々と訪れる。
『DOCTOR PRICE』は岩田剛典の“代表作”となる 作品間で連動する“野球”が導く演出
比嘉愛未とのW主演ドラマ『フォレスト』(2025年/ABCテレビ・テレビ朝日系)がまだ放送後の余韻を楽しませてくれているというの…難しい条件を突破するのに正攻法など使わない。利用できるものはすべて利用する。それが鳴木の流儀だ。常識にも感情にも囚われず、一縷の迷いも無駄もなく成功への道すじを組み立てるその手腕は、転職エージェントの枠をとうに超えている。”商品”として売り込む医師を鵜の目鷹の目で見定める鳴木が仕掛ける転職劇は、ただの就職マッチングではない。情報戦であり、心理戦であり、まさに医療業界を舞台にした頭脳サスペンスそのものなのである。
第1話にてまず鳴木のもとを訪れたのは、かつてパワハラを受けており、鳴木に助けられる形になった後輩・葛葉(阿部顕嵐)。ギャンブルで多額の借金を抱えた葛葉は、「年俸2000万円」という転職条件を提示する。それは、まだ若く医師としての経験も浅い葛葉にとってあまりにも無謀な条件だ。だが、鳴木は「私のやり方に決して口を挟まないこと」という条件付きで交渉を引き受ける。
葛葉の売り込み先として狙いを定めたのは、麻酔科医の人手不足に悩む柊木総合病院。鳴木は院長・柊木(黒沢あすか)を相手に巧みな話術で交渉を展開し、みごと葛葉の採用を勝ち取る。だがそれは、子育て中で残業ができない麻酔科医・新井(宮内ひとみ)の退職と引き換えだった。1人を売り込むために、1人が職を失う。鳴木が動かすのは、商品となる医師の人生だけでなく、そこに関わるすべての人や組織の命運そのものなのである。さらに驚くべきことに、彼の筋書きではすでに、新井の再起さえも計算のうちだった。

葛葉の登用により職を失うことになった新井を売り込むべく、整形外科の単科病院・霞野整形外科病院の事務長・七海(神保悟志)と対面した鳴木は、禁じられている医療行為”並列麻酔”が当院で行われているという情報をさりげなく投下。さらに、1000万円という高額の紹介料を提示した鳴木は、霞野で起きた死亡事故の内部報告資料を突きつける。これは、当直医として霞野でアルバイトをしていた後輩・葛葉が、鳴木の指示で極秘に入手していたものだった。恩を売った相手をここぞとばかりに利用するやり方がいかにも鳴木らしい。
さらに鳴木は、追い打ちをかけるように霞野の弱みを次々と突きつけていく。病院内のパワハラや違法なダンピング、患者への過剰診療……。これらの証拠は、事務スタッフ・夜長の潜入調査により入手したものだ。七海の逃げ道を次々に塞いでいく鳴木の様子は、獲物をじわじわと追い詰める冷静な狩人そのもの。ついに観念した七海は、1000万円という破格の紹介料と新井の採用を受け入れるのだった。
一つひとつのピースがみごとに噛み合い、すべてが次のカードにつながっている。なんという周到さ、なんというスリルだろう。転職交渉の場において善でも悪でもない、あくまで中立的な立場を貫く鳴木だが、組み立てる綿密なストーリーの中心にいるのは医師でも病院でもなく、紛れもない彼自身だ。モップでパワハラ上司を殴り、望んだ形での退職に持ち込んだ3年前と変わらず、鳴木のやり方は一貫して突飛で破天荒で、しかしその実、行動のすべては巧妙に張り巡らされた伏線の上に成り立っている。相手の欲望や弱みを見極めつつ盤面を支配していく鳴木の在り方は、一世一代の対局に挑むプロ棋士のそれを連想させる。























