『あんぱん』最高のキスシーンの舞台をなぜトイレに? のぶと嵩がたどり着いた幸せの形

トイレできれいな星空を眺めながら、幸せについて語り合う。「幸せって誰かにしてもらうもんやのうてふたりでなるもんやないろうか」はそこで発せられた言葉である。のぶと嵩は「ふたりで探していこう。何が起きてもひっくり返らんもの」と誓う。

正義もひっくり返るけれど、幸せもひっくり返る。ついでにトイレという不浄とされる場所もロマンティックなキスシーンの場所へとひっくり返る(まるで唐十郎の世界のようだ)。
「うち こじゃんと幸せ。嵩とおるだけで。でもいまが一番幸せやったらいややな」とのぶがそう言うのは、次郎との幸せがあっけなく終わってしまったからであろう。大騒ぎしている女性たちも、大好きな人たちといて幸せだったけれど、その人を失って、幸せがひっくり返った経験を持っている。

くらが嵩に「頼むき。長生きしてね。のぶより長生きしてね」と言う気持ちはわかる。好きな人の死は辛い。それを目の当たりにしてそこからひとり生き残っていくよりも、自分がそれを体験しない(つまり先に死ぬ)ほうが幸せである。好きな人に看取られて死ぬのが最高の幸せなのだ。
嵩に「のぶより長生きしてね」と願ったくらは、第90話、死に目をドラマの視聴者には見せず、元気な笑顔で去っていった。「夫婦になったのぶと嵩見届け、くらは釜次のもとへ旅立ちました」と語り(林田理沙)のみ。その前に、のぶと嵩のキスシーンがあって第90話はそれがメインだと思いきや、くらが亡くなったというエピソードも入って、どこを中心にレビューしていいか迷ってしまうような山場が盛りだくさんの構成なのである。
ただ、孫の最高に幸せな瞬間を見届けて亡くなったくらはとても幸せだっただろう。戦争では若者が先に死んでいくことも多かったわけで。そんなのつらすぎる。年齢順に先に逝くのはある意味仕方がない。そこをドラマとして哀しい見せ場に落とし込まず、くらをよそ行きのキレイな姿で、最高に幸せな笑顔のまま退場させた脚本は悪くない。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK





















