マーベル離脱組も必見! 『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』は誰もが楽しめる

マーベル離脱組必見『ファンタスティック4』

4人と1体の親密な物語であるからこその魅力

 単独作だからこそ、本作の中でのみ展開される人間関係に観客が集中できる点もいい。特にこの映画はヒーロー映画でありながら、ドラマとアクションのバランスが絶妙で、言ってしまえばドラマパートのほうが見応えがあるかもしれない。

 映画はリードとスーのリアルな夫婦のやり取りを映しつつ、彼女の妊娠が発覚する場面から始まる。こういったところからも、すでにキャラクター同士の親密な物語が本作の核であることを強調しているのがわかる。そして実際に、その後のストーリー展開ではスーの子供が生まれるまでの日々では、ジョニーとベンが「良い叔父さんになる!」と張り切る様子などが描かれ、その中で彼らの人となりが垣間見えるようになっている。もちろんリードも例外ではない。“ザ・理系脳”の不器用な夫であるリードは“父”になることへの不安を隠さずにいる。そんなふうに映画として一つの出来事に対して多角的な視点を与えている点が良い。

 従来のヒーロー映画はひたすらヒーローがヴィランと対峙するような出来事、アクション要素を中心にしているのに対し、本作は“ファンタスティック4”がみんなで子供を迎えようとしている……“家族”として過ごす時間(ドラマ)を大切に描いているのだ。そしてその時間ややり取りがあるからこそ、ギャラクタス(ラルフ・アイネソン)から与えられる恐怖が生々しいものとなる。

 ギャラクタスはマーベルの中でも未だかつてないスケールのヴィランだ。なにせ、全ての惑星を喰らい尽くそうとする存在なのだから、人類はおろか全宇宙にとっての脅威である。本作では前提知識がなくても、簡単に地球を滅ぼせる強さをまざまざと見せつけ、このギャラクタスを恐ろしいものとして描くことに成功していると感じた。そんな怖くて大きい謎の存在が、地球に手を出さない代わりにスーの赤ん坊、フランクリンを差し出せと言う。それこそ、一見スケールが違う交換条件だが、母親のスーにとってフランクリンは“世界”であることを、私たちはそれまでの物語の中で十分に刮目し理解している。だからこそスーが、リードが、“ファンタスティック4”がヒーローとして人間として葛藤する姿に共感できるのだ。

 監督が『ワンダヴィジョン』のマット・シャクマンというだけあって、やはり夫婦や家族を描く物語がとにかく上手い。このドラマとアクションの絶妙な調和こそ、本作がこれまでのマーベル映画の中でもキャラクターの感情に寄り添える、intimate(親密)に感じる作風であることを実感させるのだ。

レトロ・フューチャーな世界観が照らすテーマ

 その親密さは、レトロ・フューチャーな世界観にも大きく密接してくる。兎にも角にも、本作の視覚的な魅力はレトロ・フューチャーな世界観だ。特にプロダクションデザインに注目してほしい。手がけたのはカスラ・ファラハニで、何を隠そうあのマーベルドラマシリーズ『ロキ』も担当していた人物だ。『ロキ』もTVA(時間変異取締局)というSF的な舞台に対し、どこかレトロで“懐かしい”と思わせる雰囲気があった。彼のプロダクションデザインの特徴は、そういったまだ見ぬ未来の中に感じる温もりの中にいるキャラクターが、より人間くさいものとして描かれることだ。『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』においては、サポートロボットのハービー(H.E.R.B.I.E.)がまさにそんなふうにして、愛おしい家族の一員として大きな存在感を持っている。

 街の雰囲気も良い。近未来的な建物が立っていたり、車が空を飛んでいたりするけど、ベンが暮らしていた下町の雰囲気は変わらないし、彼が車を持ち上げるだけで子供たちは大喜びする。テクノロジーが発展しているようでしていない、またはそれに依存していないのか、人々の距離がまだ近いのだ。その近しい距離感の温もりが、時には刃となって“ファンタスティック4”のメンバーに降り注ぐのだが、それでもみんなが何か一つの希望を持っている様子は眩しかった。

 そんなレトロ・フューチャーな世界観を通して描かれる、登場人物それぞれの体温。スーのヒーローとしての力が“母”としての力に重なって描かれる点も素敵で、彼女にまつわるシーンは神秘的なものが多かった。しかし、彼女だけでなくリードやジョニー、ベン、それぞれのキャラクターの関係性が、温もりや絆が感じられる作品であることが何よりも魅力的なのではないだろうか。どんな選択肢を持っていても、違う考えを持っていても、私たちは理解し合おうと歩み合うことで、愛し合うことができると教えてくれる。だからこそ、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』はエンタメ作品として楽しめる以上に、純粋に大切な人と観たい、そう思える作品なのだ。

「ファンタスティック4:ファースト・ステップ」本予告編|7月25日(金)日米同時劇場公開!

■公開情報
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』
全国公開中
出演:ペドロ・パスカル、ヴァネッサ・カービー、ジョセフ・クイン、エボン・モス=バクラック
日本版声優:子安武人(リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック役)、坂本真綾(スー・ストーム/インビジブル・ウーマン役)、林勇(ジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチ役)、岩崎正寛(ベン・グリム/ザ・シング役)、楠大典(ギャラクタス役)、上田麗奈(シルバーサーファー役)
監督:マット・シャクマン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2025 20th Century Studios / © and ™ 2025 MARVEL.
公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/fantastic4

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