『べらぼう』矢本悠馬だから表現できた佐野政言の生々しさ 仄暗く“完璧”な第27回

『べらぼう』仄暗く“完璧”な第27回

 「願わくば花の下にて春死なん」ーータイトルにもなった西行法師の歌は、意知が誰袖(福原遥)に贈った歌であった。〈西行は 花の下にて死なんとか 雲助袖の 下にて死にたし〉ーー意知が詠んだこの歌について、大嶋は「誰袖へ贈った愛の歌ではありますが、死を連想させるような不穏な空気を醸し出しつつ、花から桜、つまり佐野をも彷彿とさせるような歌」と解説する。満開の桜は美しいが、同時に散りゆく運命を内包している。全編を通してたびたび映される桜の花は、まるで死の予兆を象徴するかのように舞っていた。

 そしてラストシーン。江戸城内で意知を前にした政言は、一瞬、穏やかな微笑みを浮かべる。そこには狂気と悲しみ、そして奇妙な解放感、すべてが同居していた。次の瞬間、その表情は一変し、刀を抜く。それは衝動的な爆発ではなく、この回を通じて丁寧に積み上げられた感情の“必然”として描かれていて、生々しい感情が溢れ出ていた。

 だからこの役は矢本悠馬なのだ。派手な演技ではなく、抑制の効いた表現で内面の嵐を描く矢本の演技力があってこそ、政言は単なる「乱心した男」ではなく、時代と家名の間で引き裂かれた一人の人間として立ち上がった。

 第27回は、構成として完璧だった。政治の駆け引き、家名への執着、父子の哀しみ、そして満開の桜ーーすべての要素が複雑に絡み合い、一人の男を破滅へと導いていく。「なぜこうなってしまったのだろうと、少し疑問を残すような描き方」を目指したという演出意図は、矢本の繊細な演技によって実現され、史実では「世直し大明神」として庶民に称えられたという政言の等身大の姿が、生々しくも浮かび上がっていた。

参照
※ https://www.nhk.jp/p/berabou/ts/42QY57MX24/blog/bl/pG3k57WNaG/bp/pXMdjJGnGm/

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送/翌週土曜13:05~再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00~放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15~放送/毎週日曜18:00~再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

 

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる