一方で、そうしたキャラクターの心理的演出は、まりなにも等しく施されている。第1話のラスト、母親と対峙したまりながいる夕陽に染まった室内が、非現実的な速さで暗く沈み、影が彼女を飲み込んでいく。母の手が頬に触れた瞬間、まりなの顔は完全に影に覆われ、目だけがぎらりと光を放つ。まるで夜行性の動物のような、不穏で恐ろしい瞳のアップを捉え、画面は唐突にブラックアウトする。原作にはないこの影の演出が、まりなの心に潜む闇を、言葉以上に雄弁に語っている。

　さらに、学校のシーンでもアニメならではの演出が光っていた。画面を分割し、「いじめられるしずか」「陰からこっそり助けようとするタコピー」「思い通りにいかず苛立つまりな」の三者を同時に映し出す構成が取られており、それぞれの心理が直感的に伝わってくる。ボロボロのランドセルや、落書きされた習字といった細部は原作にも描かれていたが、視点の同時進行というアニメ独自の構図によって、その出来事がたまたまの1回ではなく、しずかにとって、いつもの学校生活なのだという実感が否応なく突きつけられる。

　たとえ捨てられたノートが見つかったとしても、次はランドセルを隠される。目の前のいじめがひとつ解決したところで、また新たな手口が始まる。まりながいる限り、いじめは終わらない。2つに分割された画面で追う残酷な現実が、ただの演出にとどまらず、じわじわと第2話後半の伏線としても後を引く。

　そして、SNSでも大きく話題になったのが、タコピーによるまりなの殺害シーンだ。カメラで殴られたまりなが崩れ落ち、その姿を見たしずかが「タコピーすごい！」と無邪気に目を輝かせる。すると、その瞬間にヴィヴァルディの「春」が流れ始める。いじめの元凶がいなくなったことで、“春が来た”と錯覚するような、しずかの歪んだ解放感が音楽によって強調される場面だ。

　しかもその直前には、タコピーの記憶として、しずかが自ら命を絶つ過去の回想が挿入される。「仲直りリボン」が、まるでページをめくるように静かに揺れる演出によって、希望と破滅、幸福と喪失が、わずか数秒の映像の中で交錯する。

　「隠れて見ているだけじゃダメだ」と、救いを願って差し伸べたはずの手が、結果として相手を壊してしまう。『タコピーの原罪』というタイトルが意味する“原罪”とは何か。その問いが、冷たくも美しい映像演出として、視聴者に投げかけられているようにも思える。

　原作の“重さ”をどう料理していくのか。そんな関心を抱きながら観ている視聴者にとって、今後さらに注目すべきポイントのひとつが、キャラクターの「顔」の描かれ方だ。

　本作では、しずかやまりなをはじめとする主要人物の表情がアップで映し出される場面が多く、その多くが左右非対称に描かれている。心理学では「人間の本性は、顔の左側に現れやすい」とされており、実際に作品内の印象的なシーンでキャラクターの顔を片側だけ見比べてみると、その感情の揺れや矛盾がにじみ出ていることに気づく。

　今後のエピソードでも、こうした表情のクローズアップは繰り返し登場するはずだ。物語の展開だけでなく、キャラクターの“顔”に宿る本音にも目を向ければ、『タコピーの原罪』という作品が、さらに鮮やかに浮かび上がってくるだろう。

　“原作準拠すぎる”と言われる本作だからこそ、ぜひ原作と見比べながら鑑賞してみてほしい。秀逸なアニオリが加えられた部分にこそ、きっと作品を読み解くヒントがあるはずだ。

■配信情報
『タコピーの原罪』
Prime Videoにて配信中
原作：『タコピーの原罪』タイザン5（集英社ジャンプ コミックス刊）
監督・シリーズ構成：飯野慎也
キャラクターデザイン：長原圭太
プロップデザイン：中井杏・10十10
2Dワークス：アズマ・10十10
美術監督：板倉佐賀子
色彩設計：秋元由紀
CGディレクター：茂木邦夫
カラースクリプト：大谷藍生
撮影監督：若林優
編集：坂本久美子
音響監督：明田川仁
音楽：藤澤慶昌
アニメーション制作・プロデュース協力：ENISHIYA
企画・プロデュース：TBSテレビ
キャスト：間宮くるみ（タコピー）、上田麗奈（しずか）、小原好美（まりな）、永瀬アンナ（東）
©タイザン5／集英社・「タコピーの原罪」製作委員会
公式サイト：https://www.tbs.co.jp/anime/takopi_project/
公式X（旧Twitter）： @takopi_pr
公式TikTok：@takopi_anime