『ブギウギ』『マッサン』『あんぱん』 朝ドラの“玉音放送”を通して描かれた女性像
もはや伝説の「玉音放送」シーンといえば、『カーネーション』(2011年度後期)のそれだろう。ミシンに魅せられた主人公・糸子(尾野真千子)は、「オハラ洋装店」を営んでいるが、戦争のため仕事を失い、3人の小さな子どもを疎開させながら養っている。出征した夫の勝(駿河太郎)はすでに戦死していた。そんな疲弊しきった時に流れてくる「玉音放送」。小原家ではやはり放送を聴いても誰も内容を理解していないが、近所の人が、戦争が終わったということだと教えてくれる。糸子はゆっくりとラジオのスイッチを切り、「さあ、お昼にしようけ」と、昼食を作るためにたちあがる。
たったそれだけのシーンなのに、視聴者たちは胸をつかれた。それはどうしてだったのか。「とにかく食べて生きよう」という意味だという解釈もあるが、個人的には少し違った感想を持っている。糸子が戦争終結に大騒ぎしなかったのは、「大義」への静かな抗議だったのではないだろうか。理想や正義といった大きな目的のために突き進んだ結果、多くの犠牲を生んだ戦争。それに対して、「ご飯を作る」という日々の小さな営みをぶつけることで、「大義がなんぼのもんじゃい」という糸子の心の声を聞いた気がしたのだ。
『あんぱん』『ブギウギ』『虎に翼』も 朝ドラが描いてきた“赤紙”と戦争に向かう男たち
NHK連続テレビ小説『あんぱん』は第10週に入り、戦争がますます激しくなってきた。脚本を担当する中園ミホは、「私はやなせさんを描…『あんぱん』第12週のタイトルは、「逆転しない正義」だ。嵩のモデルとなったやなせたかしは、この戦争を通して「本当の正義とは何なのか」を考え続けた。そしてたどり着いた答えが「飢えた人に一切れのパンを与えること」だったという。
柳井嵩を演じている北村匠海は、インタビューでこう語っている(※2)。
「嵩は戦争の中で規律や軍隊の訓練、戦地で経験したこと、敵や仲間の死などに直面して、成長ではなく、達観していったのだと僕は解釈しました。それが、あのみんなから愛される『アンパンマン』につながったのかな」
戦争が終わった時、それぞれの人がなんらかの「達観」をしたのかもしれない。主人公ののぶは「玉音放送」にどんな表情を見せるのか。物語はクライマックスを迎えようとしている。
参照
※1. https://realsound.jp/movie/2020/10/post-633987.html
※2. https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2025/06/18/kiji/20250404s00041000250000c.html
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK