『国宝』は俳優の深淵を見つめ続ける 観客も共有する吉沢亮×横浜流星が見た“景色”

 さらに、喜久雄、俊介をはじめとする歌舞伎役者たちの人生の物語は、彼らが演じる歌舞伎の演目と見事に重なり合う。例えば彼らがそれぞれのタイミングで演じる、『曾根崎心中』のお初が死に向かう場面。半二郎が喜久雄に「お初として生きてへんから、お初として死ねへんねん」ときつく注意する場面があるように、彼らが演じる姿を観ていると、「演じる」ということは、演じる役柄が死にゆく姿に、その人物の「生」を凝縮する行為に他ならないのだということが分かってくる。さらに本作は、同じ手法で、演じる者たちの人生を重ねて見せるのである。

 例えば、半二郎が舞台上で吐血しながら見せた白虎襲名という自身の晴れ舞台への執着。さらには病で片足を切断した俊介が、喜久雄を徳兵衛役にして、今の自分にしかできない「お初」を最後まで演じきろうとすること。『鷺娘』の素晴らしさから「美しい化け物」と俊介に評される田中泯演じる万菊が横たわる、一切の「美しさ」を排した殺風景な部屋。そこにはそれぞれの「人生」が、俳優たちの演じることへの無限の「欲望」が垣間見える。

 そして、舞台の上と、観客席という2つの世界。半二郎の代役として、実の息子である俊介を差し置いて喜久雄が選ばれた時の、舞台の上で『曾根崎心中』のお初を演じる喜久雄と、観客席に佇む俊介の明暗。俊介の元に、常に目の奥に孤独の色を忍ばせていた喜久雄の恋人・春江(高畑充希)がそっと寄り添うことで、虚構と現実の「恋の逃避行」が、舞台上と同時進行で描かれる。

 また、終盤に喜久雄と言葉を交わす女性カメラマン(瀧内公美)は、喜久雄に、彼が観客に見せる「これからなんかええこと起こりそうな、そんな気分にさせてくれる」景色の話をする。一方の喜久雄は、彼にしか見えない特別な「景色」を、舞台の上からずっと探している。交わりそうで交わらない2つの「景色」の多幸感と少しの切なさは、喜久雄と喜久雄を愛した女性たちの思いと重なって、さらには本作を観ている観客が見る3つ目の「景色」と重なる。「俳優」とは。本作は、その深淵を見つめる映画だ。

■公開情報
『国宝』
全国公開中
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作、宮澤エマ、田中泯、渡辺謙
監督:李相日
脚本:奥寺佐渡子
原作:『国宝』吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
製作幹事:アニプレックス 、MYRIAGON STUDIO
制作プロダクション:クレデウス
配給:東宝
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
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