伊東蒼は”儚さ”が光る唯一無二の俳優だ 『今日の空が一番好き』での名演が胸を打つ
人は誰しも他者に対して、何かしらの印象を抱くものだ。たとえば、「明るい」だとか、「暗い」だとか。そうした周囲に与える“印象”が、俳優にとっては強みとなる。いまのところの伊東に対して私たちの多くが抱く印象は何だろうか。それはやはり、儚げな役どころにハマるということだと思う。もちろん、「儚げ/儚い」などと簡単に括ってしまうのは気が引ける。彼女が体現するキャラクターたちは誰もが懸命に生きているのだから。けれどもそういった傾向があるのは事実である。
今年の日本の映画界から生まれた数ある名シーンの中でもっとも素晴らしいものとして、『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』のシーンのいずれかを挙げる観客は多いのではないかと思う。いや、日本の映画界にとどまるものではないか。それほど白眉なシーンだらけの作品なのだ。
そんな本作は観る者に驚きを、いや、ショックを与える作品だと思う。だから伊東が演じる“さっちゃん”という人物がどういったキャラクターなのか、そして、物語にどう関わってくるのかについて深く触れることは避けておきたい。ただひとつだけ明かしてもよさそうなのは、主人公・小西徹(萩原利久)に対して彼女が想いを寄せているということだ。小西と“さっちゃん”のやり取りの中で、“さっちゃん”が感情を延々と吐露するシーンがある。
いまにも消えてしまいそうな身体と心を震わせて、彼女は言葉を紡ぎ続ける。そのひたむきな姿は儚げであるのと同時に、生命力に満ちているものだ。このシーンに出会って、改めて学んだことがある。それは、人の感情というものはまとめられないものであり、要約などできはしない、ということだ。俳優・伊東蒼が体現する“さっちゃん”の姿から学んだ。
時として人の懸命な姿というのは、他者の胸を打ち、何かしらの気づきを与えるものだ。“さっちゃん”が必死になって想いを伝えようとする姿も、これを体現しようとする伊東の姿もまたそうなのである。私は彼女“ら”のあの儚げで、エネルギーに満ち溢れた姿を、ずっと忘れない。
■公開情報
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』
全国公開中
出演:萩原利久、河合優実、伊東蒼、黒崎煌代、安齋肇、浅香航大、松本穂香、古田新太
監督・脚本:大九明子
原作:福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館刊)
製作:吉本興業、NTT ドコモ・スタジオ&ライブ、日活、ザフール、プロジェクトドーン
製作幹事:吉本興業
制作プロダクション:ザフール
配給:日活
©2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会
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