『あんぱん』朝田家三姉妹、今田美桜×河合優実×原菜乃華には“朝ドラ”が詰まっている

 のぶと嵩の学生編の終わりとなる第7週では、これまであまり目立っていなかったメイコのエピソードが描かれた。健太郎に恋をしたメイコは思いきって告白するが、ちゃんと伝わらないという微笑ましいものだった。

 海でメイコは健太郎にやさしい言葉をかけられ、手を差し伸べてもらい、どんどん「ぽぉっ」となっていく。だんご屋でも、いちいち健太郎の言葉が気になって、ついに自ら好きな人がいると言ってしまう。本人は健太郎のことを指しているつもりが、正確に届いていない。にもかかわらず、自分は思いきって告白したと思い込んでいるのもご愛嬌である。

 ひじょうに古典的な純情な恋心の表現と、思いがうまく届かず落胆する様のユーモラスな表現を原菜乃華が的確に演じている。

 朝田家では、のぶとメイコが、従来の明るく元気でさわやかが3大要素とされる朝ドラヒロインらしさを担っていると感じる。メイコは『ちゅらさん』(2001年度前期)のえりぃ(国仲涼子)的な無鉄砲でドジっ子な、王道のイメージ。のぶは、明るく元気だが、時々、きついことを言ってしまったり、愛国少女になったりと、愛嬌で済まないところも背負っている。『あんぱん』の脚本家・中園ミホが書いた『花子とアン』(2014年度前期)の花子(吉高由里子)は悩みながらもラジオによる戦争プロパガンダに加担したこともあった。のぶの役割は、花子のような一面では語れない複雑な内面を持っているように思う。つまり王道の進化系である。

 では、蘭子はどうか。第7週まで観ていて、蘭子は『マー姉ちゃん』(1979年度前期)の主人公の妹・マチ子のようだと思った。マチ子を演じたのは、のちに『おしん』(1983年~1984年)で堂々主演した田中裕子である。つぶらでやや伏せがちな瞳がどこか似ているような気がするのだ。薄口な憂い顔だが、しっかりした感情表現で情念のようなものも感じさせる。落ち着きがあってどこか、ただものならざる感。朝ドラらしいポップさ少なめ。河合優実は朝ドラらしくない雰囲気とも言われているようだが、朝ドラにおける田中裕子と考えたら朝ドラにもしっかりハマっていることになる。

 もちろん、ひとりひとり個性があって、同じ人はいないので、これはひとつの考え方にすぎないことをお断りしておく。

 そのうえで、朝田家三姉妹は、王道のメイコ、反王道の蘭子、ハイブリッドののぶと極めてバランスよいトリニティを形成しているのである。共通しているのは、3人とも透明感があることだろうか。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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