小芝風花の悲哀は“日本建築”を思わせる 『べらぼう』怒涛の退場劇にみる“粋”の精神

 男を思い、去っていく女、おのれの正義を貫いて死んだ男、友のためを思ったことが仇になった男――王道の物語類型の通奏低音となっていたのは、粋の概念だった。

 それは細部にいたるまで徹底されていた。明から暗へと転換する瀬川の物語はすでに述べたとおり、日本建築へのオマージュのようにも思えるし、肩透かしを食わせる構成や義理人情に厚い登場人物の描写は黄表紙を読んでいるようだ。いずれも粋な江戸っ子が愛してやまないものである。

“ヤスケン劇場”はまだまだ続く! 安田顕=平賀源内を刻みつけた『べらぼう』での名演

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 しかしなによりも見逃せないのは、粋という芯で一本筋を通しつつ、すべての事象が連綿とつながる筋書きである。そのさまは登場人物がみずからの意思で動いているような錯覚を覚えるほどだ。蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)が『吉原細見』を出すまでの四苦八苦しかり、吉原の親父たちを味方につけるまでの七転八倒しかり。

 第14回「蔦重瀬川夫婦道中」も冴えわたっていた。晴れて結ばれ、喜びを隠しきれない様子の蔦重に対し、駿河屋の女将・ふじ(飯島直子)は「世の中にゃ検校を腹の底から憎んでる人だっていんだよ」と難色を示す。そして危惧したとおり、瀬川は恨みを抱える女郎に襲われる。気丈に振る舞う瀬川の背中を最後に押したのは『青楼美人合姿鏡』だった。そっと繰った一葉には心からくつろぐ女郎が描かれていた。それはとりもなおさず、「吉原を楽しいことばかりのとこにしようと思ってんだよ」と語った蔦重が描く夢そのものであり、瀬川は事ここにいたって嫌というほど自覚する。「曰くつきのわっちまで抱え込むってのは、弱みをひとつ増やすだけ」と。めくるめく展開。息もつかせぬとはこのことだった。

 遊び心も利いていた。『青楼美人合姿鏡』には瀬川の俳諧が載っている。

「きのふこそとしは暮しかと詠る遠山のながめにも心かよひて うくひすや寝ぬ眼を覚す朝朗(年が明け、遠山のながめに感じ入る。うとうとした明け方、うぐいすの声に目を覚ます)」

 瀬川は初日の出を拝む前に、吉原を去った。遠山とはふたりが叶えたかった夢のことなのか――。

 終わりの大河ドラマ紀行は昔から好きなコーナーだったけれど、いまほどその存在をありがたく思ったことはない。ほてった体をクールダウンさせてくれるからだ。

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参照
https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/249842/#toc-5

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』
NHK 総合にて、毎週日曜20:00~放送/翌週土曜13:05~再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00~放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15~放送/毎週日曜18:00~再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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