東映作品に共通する“娯楽のど真ん中”への貪欲さ 丸の内TOEI閉館を機にその歴史を振り返る

 その後も東映は、数々の娯楽作品の上映で、われわれ観客を楽しませていった。『二百三高地』(1980年)、『セーラー服と機関銃』(1981年)、『時をかける少女』(1983年)、『風の谷のナウシカ』(1984年)、『Wの悲劇』(1985年)、『極道の妻(おんな)たち』シリーズ、『スケバン刑事』シリーズ、『あぶない刑事』シリーズ、『魔女の宅急便』(1989年)、『天と地と』(1990年)、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)、『失楽園』(1997年)、『鉄道員(ぽっぽや)』、『バトル・ロワイアル』(2000年)、『ONE PIECE』シリーズ、『プリキュア』シリーズ、『狐狼の血』シリーズ、『恐怖の村』シリーズ、『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)などなど……。

 紹介から漏れた作品はあまりにも多いが、これらに基本的に共通しているのは、とにかく“娯楽のど真ん中”にいることに貪欲だという点。このような娯楽追求の凄まじいまでの徹底性こそが、東宝や松竹などに対抗してきた東映の、武器であり個性だといえよう。

 だが時代のなかで、かつて「娯楽の王さま」と言われた映画産業自体が、技術革新やライフスタイルの変化などで、縮小を余儀なくされていった部分がある。そんななか、アメリカ発祥の新たな劇場の形態である、合理的な複合型映画館「シネコン(シネマコンプレックス)」が登場。このビジネス形態が強いのは、上映作品ごとの観客の入りに応じて、館内の複数のシアターでフレキシブルにプログラムをコントロールできるところだ。直営劇場では、この自由さはなかなか真似できない。これによって、日本全国で従来の映画館の閉館が相次ぐようになった。その流れには抗えず、国内大手の各映画会社も、関連会社によるシネコン経営に乗り出すようになるのだ。

 東宝は「TOHOシネマズ」、松竹は「松竹マルチプレックスシアターズ(SMT)」、そして東映は「T-JOY(ティ・ジョイ)」と、各社はそれぞれシネコン経営の会社に映画館の運営を任せる。本社から切り離すという合理化によって、従来の「直営」映画館は姿を消していき、もはや国内大手映画会社で残る直営劇場は、「丸の内TOEI」ただ一つになっていたのだ。そんな「映画黄金期」の時代を彷彿とさせる最後の灯も、もうすぐ消えることとなる。

 東映の発表によると、東映会館の跡地にはホテル・店舗を中心とした商業施設を建設するとのこと。銀座の一等地であるため、安定的な賃料収入が期待できる。東映はかねてより、全国各地の直営映画館を再開発した、「渋谷東映プラザ」、「広島東映プラザ」、「福岡東映プラザ」、「仙台東映プラザ」などの不動産事業を展開している。銀座でもまた、その例に倣うということだ。また、かつての新宿の直営館「新宿東映会館」の跡地を中心に建設された商業施設「新宿三丁目イーストビル」では、不動産事業に加えて、T-JOY がTOHOシネマズと共同経営するシネコン「新宿バルト9」が、現在営業中である。

新宿東映会館跡地を中心に建造された新宿三丁目イーストビル、およびT-JOYがTOHOシネマズと共同経営する新宿バルト9

 2029年に竣工予定の銀座のビルに、東映本社が再び入ったり、「新宿バルト9」のようなT-JOY運営のシアターが入るかは未知数だが、それを願うのは映画ファンの夢に過ぎないのかもしれない。銀座には現在、基本的に56メートルを超える建造物を建ててはならないというルールが存在するからである。そうなると地上11階、頑張っても13階の建設が限度となる。東映会館の隣の商業ビル「ギンザ・グラッセ」や、「GINZA SIX(ギンザシックス)」など、ルール制定後に建造された施設は、そのぎりぎりを攻めて利益の最大化をはかっているのだ。

 そうなると、映画館の経営や本社の再移転は、必然的に限りあるスペースを圧迫し、東映の不動産事業の利益を落とす要因になってしまうだろう。そうでなくとも、いま東京では土地さえあれば、店舗のテナントやオフィスのテナント、ホテルなどを営業するビルが建造され続けている状態だ。だからこそ、多くの直営館が商業施設になってきた歴史を経験している映画ファンにとっては、東映に銀座への捲土重来を果たしてほしいところではある。

 日比谷、銀座エリアは、現在の「東京国際映画祭」の開催エリアでもある。しかし、銀座に映画館が乱立していた時代は過ぎた。東宝の牙城である日比谷会場からいったん外に出て、他の会場に向かおうとすると、銀座の街から映画文化の熱気を感じにくくなってきているのも確かなことなのだ。丸の内TOEIの閉館は、この寂寞感の醸成に拍車をかけることになるだろう。だが、東映が時代のうねりとともに変化を続けたように、これもまた、時代の要請する空気への一つの回答だといえるのかもしれない。

 丸の内TOEIでは閉館の日まで、各種イベントが開催される。2025年5月9日からは、「さよなら 丸の内TOEI」プロジェクトが開幕し、往年の名作から近年の話題作に至るまで、東映のエンターテインメントを示す80タイトル以上が上映されるという。この機会に、日本映画の黄金時代の空気を、歴史を刻んだ映画館で体験するのもいいだろう。

参照
https://www.toei.co.jp/about/business/#business-modal-real-estate
https://www.ginza.jp/qa/vol-01
https://tjoy.co.jp/theater/info/shinjuku-wald9

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