森下佳子は感情の深淵を描き続ける脚本家 『べらぼう』蔦重の“夢と別れ”の第1章を総括

 また、第16話は「幕を開ける」という言葉がキーワードになっている。蔦重は芝居の前の座元の挨拶を見て、自身の本にもそういった趣向を凝らせないかと巻末に「芝居の幕開け」とだけ書いておく。それが終盤の紙吹雪と蔦重の口上という夢に繋がり、実際の黄表紙本『伊達模様見立蓬莱』の巻末に記された広告となった。一方で、幕臣たちは、一連の事件の幕を「ひとまず閉じなければ」と躍起になっていた。家基(奥智哉)に続き武本(石坂浩二)の死、そして源内にまで災いが及び、何もできないことに憤る意次に対し、意知(宮沢氷魚)が「ここで手を出せば再び幕が開いてしまう」と忠告するように。そして「これより幕を開けたるは、そんな2人の痛快なる敵討ち」と書いた源内の物語が、永遠に失われることによって、彼の人生の幕は閉じられるのだった。

 「何が夢で何が現なのか」分からなくなりそうなその死を悼みながら「現」の雪を「夢」の雪に、手品のように変えて見せた蔦重は、舞台の上で「これよりは、次の幕を開けますところ」と語りだす。それが告げるのは、『べらぼう』というドラマそのものの1つの物語の終わりと、新たな物語の始まりだろう。吉原の主人たちのみならず、国の中枢にいる田沼意次までも「忘八」となってしまう「この欲深き時代」を、「書をもって世を耕し、この日の本をもっともっと豊かな国にする」という意味を持つ、源内が名づけた「耕書堂」という名前と、かつて瀬川と2人で見た大きな夢を背負って、蔦屋重三郎は鮮やかに駆け抜けていく。「夢ん中にいるみてえ」な人生を。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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