『ジークアクス』『水星の魔女』はなぜ“女性主人公”? 令和ガンダムが提示した新視点
その一方、2022年から2023年にかけて放送された『機動戦士ガンダム 水星の魔女』も、スレッタ・マーキュリーという少女を主人公とした作品だった。しかも実質的にはミオリネ・レンブランをもう1人の主人公とした“ダブル女性主人公”としてストーリーが構成されている。
同作の大きな特徴といえば、『ジークアクス』よりさらに強く精神的な結びつきが強調されていること。なにせスレッタとミオリネの関係は、「花婿と花婿」として始まるからだ。
物語の舞台となる「アスティカシア高等専門学園」は、学生同士による決闘のシステムがあるという設定。そこでミオリネは権力者である父・デリングの采配により、決闘の勝者と結婚することを定められている。そして成り行きからスレッタが決闘に参加したことによって、2人の関係が始まる……という流れだった。
こうしたミオリネ絡みのストーリーは、「男性的な支配欲が渦巻く世界で、自由を手に入れるためにもがく女性」という主題に裏打ちされているように見える。それと同時に、スレッタと母・プロスペラの物語を通して、「家族の絆に縛られる娘」というもう1つの主題が描かれていることも重要だ。
初代『機動戦士ガンダム』がアムロとテム・レイという父と息子の関係を重要な主題としていたのに対して、『水星の魔女』では父と娘、母と娘という関係性を物語の軸に据えている。それによって、まったく新しい形で“主人公の成長”を描き出すことに成功していた。この点にこそ、同作が女性主人公を選んだ理由があるのではないだろうか。
『少女革命ウテナ』が『ガンダム』シリーズに与えた影響
なお余談かもしれないが、『水星の魔女』と『ジークアクス』の原点にある作品として、1997年に放送された幾原邦彦監督のTVアニメ『少女革命ウテナ』にも言及しておきたい。
同作の舞台となる鳳学園では、姫宮アンシーという少女が「薔薇の花嫁」と呼ばれており、その所有権を賭けた決闘が繰り広げられている。そして女性でありながら王子様になりたいと願う主人公・天上ウテナは、そんな学園内の決闘ゲームに巻き込まれていく……。
閉鎖的な学園やいわゆる“トロフィーワイフ”を皮肉るような決闘制度は、『水星の魔女』とかなり近い設定。また男性たちの支配欲や所有欲が渦巻く世界を打ち破るため、女性主人公が躍動するという点では、『ジークアクス』にもいくらか通じるだろう。
こうして作品を並べて考察するのはたんなるこじつけではなく、明確な理由がある。というのも『水星の魔女』のシリーズ構成・脚本を手掛けた大河内一楼は、脚本家になる前に『少女革命ウテナ』の小説版を執筆した過去をもつ。また『ジークアクス』のシリーズ構成・脚本を担当する榎戸洋司は、『少女革命ウテナ』のメインスタッフとして有名。つまり両者のいずれも、キャリアの原点に近いところで同作と関わっていたのだ。
先駆的なシスターフッド作品である『少女革命ウテナ』が、主に男性たちを主役とした争いを描いてきた『ガンダム』シリーズに影響を与えたと考えると、感慨深いものがある。
もちろん、ここにあるのはあくまでテーマの継承であって、『水星の魔女』は『少女革命ウテナ』とは独立した価値をもつ作品に仕上がっていた。ただ、こうした流れを踏まえておくと、『ジークアクス』の今後の展開をより深く楽しめるのではないだろうか。
マチュという新時代の女性主人公がどのような地点に到達するのか、しかと見届けてほしい。
■放送情報
『機動戦士 Gundam GQuuuuuuX』
日本テレビ系にて、毎週火曜24:29〜放送
キャスト:黒沢ともよ、石川由依、土屋神葉
制作:スタジオカラー/サンライズ
原作:矢立肇、富野由悠季
監督:鶴巻和哉
シリーズ構成:榎戸洋司
脚本:榎戸洋司、庵野秀明
キャラクターデザイン:竹
メカニカルデザイン:山下いくと
アニメーションキャラクターデザイン・キャラクター総作画監督:池田由美、小堀史絵
アニメーションメカニカルデザイン・メカニカル総作画監督:金世俊
デザインワークス:渭原敏明、前田真宏、阿部慎吾、松原秀典、射尾卓弥、井関修一、高倉武史、絵を描くPETER、網、mebae、稲田航、ミズノシンヤ、大村祐介、出渕裕、増田朋子、林絢雯、庵野秀明、鶴巻和哉
美術設定:加藤浩(ととにゃん)
コンセプトアート:上田創
画コンテ:鶴巻和哉、庵野秀明、前田真宏、谷田部透湖
演出:鶴巻和哉、小松田大全、谷田部透湖
キャラクター作画監督:松原秀典、中村真由美、井関修一
メカニカル作画監督:阿部慎吾、浅野 元
ディティールワークス:渭原敏明、田中達也、前田真宏
動画検査:村田康人
デジタル動画検査:彼末真由子(スタジオエイトカラーズ)、三浦綾華、中野江美
色彩設計:井上あきこ(Wish)
色指定・検査:久島早映子(Wish)、岡本ひろみ(Wish)
特殊効果:イノイエシン
美術監督:加藤浩(ととにゃん)
美術監督補佐:後藤千尋(ととにゃん)
CGI監督:鈴木貴志
CGIアニメーションディレクター:岩里昌則、森本シグマ
CGIモデリングディレクター:若月薪太郎、楠戸亮介
CGIテクニカルディレクター:熊谷春助
CGIアートディレクター:小林浩康
グラフィックデザインディレクター:座間香代子
ビジュアルデベロップメントディレクター:千合洋輔
撮影監督:塩川智幸(T2 studio)
撮影アドバイザー:福士享(T2 studio)
特技監督:矢辺洋章
ルックデベロップメント:平林奈々恵、三木陽子
編集:辻󠄀田恵美
音楽:照井順政、蓮尾理之
音響監督:山田陽(サウンドチーム・ドンファン)
音響効果:山谷尚人(サウンドボックス)
主・プロデューサー:杉谷勇樹
エグゼクティブ・プロデューサー:小形尚弘
プロデューサー:笠井圭介
制作デスク・設定制作:田中隼人
デジタル制作デスク:藤原滉平
配給:東宝/バンダイナムコフィルムワークス
宣伝:バンダイナムコフィルムワークス/松竹/スタジオカラー/日本テレビ放送網/東宝
製作:バンダイナムコフィルムワークス
©︎創通・サンライズ
公式サイト:https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/
公式X(旧Twitter):@G_GQuuuuuuX