『地震のあとで』“焚き火ドラマ”として衝撃の第2話 原作小説の先の世界を描いた恐ろしさ
4月5日に放送された第1話「UFOが釧路に降りる」は、妻に去られた小村(岡田将生)が自分は中身のない空っぽの人間なのだと実感する場面で終わった。第2話の順子もまた、自分には何もない空っぽの人間であると考えている。
その意味で、第1話と第2話には連続性があり、「死」という異界の入り口に立ってしまった人間の苦しみが描かれているのだが、順子と三宅の方が、自身が抱えている不安に対し自覚的で、だからこそ焚き火が「死」をやり過ごすための「身代わり」として機能している。
それにしても、延々と続く真っ暗な映像はテレビドラマでは異例で、よくこんなシーンが撮れたなと驚かされた。暗闇の中で燃える焚き火をじ~っと観ていると、三宅たちといっしょに自分も焚き火の輪の中にいるような気持ちになるため、焚き火(を追体験する)ドラマとしても本作は楽しめる。これは映像作品ならではの魅力だろう。
最後に本作の舞台は2011年だが、順子が初めて焚き火に参加した日、三宅は今までやった焚き火の回数と「2011 1/17」という日付を流木に書く。
番組冒頭には2011年1月というテロップが表示され、阪神・淡路大震災から「あすで16年」というニュースが順子と啓介の家のテレビで流れる場面が登場するのだが、これらのシーンが不安になるのは、その後、何が起こるのかを私たちが知っているからだろう。
ある日の夜、三宅から焚き火に来ないかと順子は誘われるのだが、テレビ番組には3月10日という日付が映る。そして、三宅が流木に「2011 3/11」と書いた後、焚き火をしていた順子が少しだけ眠る場面で物語は終わる。
早く目を醒まして、海辺から立ち去っていてほしいと心配になる終り方だが、「自分が空っぽの人間かもしれない」と悩む人々の気持ちすら、容赦なく呑み込んでしまう巨大な力が天災だということなのだろう。原作小説の先にある2011年の世界を描いた恐ろしい終り方である。
■放送情報
土曜ドラマ『地震のあとで』
NHK総合にて、毎週土曜22:00~22:45〈全4話〉
出演:岡田将生、鳴海唯、渡辺大知、佐藤浩市、橋本愛、唐田えりか、北香那、吹越満、泉澤祐希、黒崎煌代、渋川清彦、黒川想矢、木竜麻生、津田寛治ほか
制作統括:訓覇圭、樋口俊一、京田光広
原作:村上春樹 『神の子どもたちはみな踊る』より
脚本:大江崇允
音楽:大友良英
演出:井上剛
写真提供=NHK