“目覚めの小五郎”の原点がここに 『名探偵コナン 水平線上の陰謀』カッコよすぎる毛利小五郎
劇場版で急にカッコよくなるキャラクターは、どんな作品にもいるものだ。しかし、劇場版『名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)』は毛利小五郎という男が“元々カッコよかった”ことを思い出させてくれる、そんな傑作だ。
※本稿には劇場版『名探偵コナン 水平線上の陰謀』のネタバレが含まれます。
海上を舞台に少年探偵団と毛利小五郎が大活躍
劇場版シリーズ第9作目に当たる本作は、鈴木園子の計らいで毛利探偵事務所一行と少年探偵団、そして阿笠博士が豪華客船アフロディーテ号の処女航海に招待され、その場で起きる殺人事件に巻き込まれる。
劇場版コナン作品は毎度お馴染み、江戸川コナンによるナレーションから幕開けとなるが、このオープニングはその作品において重要な、注意を向けるべき存在と要素へのヒントが散りばめられている。例えば今回は少年探偵団のメンバーが紹介されたり、毛利小五郎に対して「おっちゃん、もう少し推理頑張ってくれよな」とコメントがあったり。そう、本作は探偵としてのおっちゃんを堪能する作品なのだ。
序盤や終盤の展開はジェームズ・キャメロン監督作『タイタニック』(1997年)へのオマージュを感じさせ、ゲスト声優に山寺宏一(日下ひろなり役)、榊原良子(秋吉美波子役)らが参加するなど、作品全体の雰囲気が舞台を含めて豪華で“非日常的”な印象を持つ『水平線上の陰謀』。しかし、そんな中で“日常”を引き継ぐ役割を担っているのが少年探偵団だ。彼らが普段通り子供らしくいることで提案された「かくれんぼ」という遊びが園子を日下の犯行現場に誘導するなど、事件と上手く繋がるように構成されている。何より、「かくれんぼ」を通して園子と灰原哀など普段のアニメでは珍しいペアや、探偵団が作ってくれた金メダルを大切にする毛利蘭の優しい心、そして小学生の頃の思い出として、『名探偵コナン』の根幹とも言える蘭と工藤新一のラブストーリーが紹介されるなど、ファンが楽しめる要素が無駄なく組み込まれている点が素晴らしい。
後半の小五郎の大活躍につい意識が向いてしまいがちだが、本作は探偵団もすごいことをしている。八代延太郎に対する殺害未遂が暴かれた日下がモーターボートで逃走を企てた時、現場にいた目暮たち警察官が人混みですぐに追えない中、一足先に彼を追跡したのはコナン、そして少年探偵団だ。コナンが単独で追おうとした際、ボートに乗り込む探偵団のみんな。そこから急に映画『ザ・グリード』(1998年)のラスト並みのボートアクションを見せ、そこから繰り広げられる追跡劇も見応えがある。また、個人的に印象的だったのは、作中で八代の死体が発見された際には円谷光彦と吉田歩美が「どうして人は人を傷つけたりするんでしょう」「みんなが仲良く暮らせば良いのにね」と子供ながらの疑問をつぶやくシーン。それに対し、灰原が以下のセリフを残すのだ。
「無理ね。人には感情があるもの。目には見えないうえにとても変わりやすい厄介な代物がね。それが友情や愛情なら良いけど、何かのきっかけで嫉妬や恨みに変われば、殺意が芽生えることだってあるんだから」
それを聞いた小嶋元太が、自分の両親が常に喧嘩していても仲の良いことを話すと阿笠博士が「思いやり」について説く。「人はふとしたことで傷つける側にも傷つけられる側にもなる。そうならないためには相手側を思いやる気持ちが大切なんじゃ」と彼らにわかるように話し、探偵団3人組が新しい発見を得る過程が『名探偵コナン』がシリーズを通して描き続ける大切なメッセージに呼応する、非常に素敵なシークエンスなのだ。ここでも、探偵団が“子供でいること”が重要になっている。