広瀬すずのすごさは“溶け込み力”にあり 『片思い世界』で発揮された卓越した心理表現

 『片思い世界』のみならず、広瀬の役における浸透力は他の作品においても非常に高い。広瀬は過去に映画『流浪の月』において、自分を誘拐した佐伯文(松坂桃李)へ想いを寄せつつも、恋人である中瀬亮(横浜流星)からの暴力に悩む家内更紗を演じている。更紗は複雑な生い立ちを抱え、人を愛することに難しさを感じているという難しい役どころ。更紗の苦悩を抱える暗い表情が実にリアルで、まるで広瀬が同じ人生を辿っていたかのような錯覚すら覚えた。

 『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)では、父親の山下春生(リリー・フランキー)が亡くなったと知るなり、心麦(広瀬すず)の目から光が消える。広瀬はそこから戸惑いを重ねつつ、事件の真相を追う小麦の姿を、小刻みに動く眉、瞳で巧みに演じ切っていた。

広瀬すずは“希望”の象徴だった 『クジャクのダンス』の“陰”を成立させた“光”

父・春生(リリー・フランキー)が殺された理由とその背景にある事件の真実を追い求めていた心麦(広瀬すず)が、薄暗い森の中でついに父…

 屋台で春生と一緒にラーメンをすするシーンでは、2人のやり取りがあまりにも自然で本物の親子にしか見えなかった。「【完全版】広瀬すず×リリー・フランキーSP対談『クジャクのダンス、誰が見た?』1/24(金)よる10時スタート」では、年の離れたリリー・フランキーに物おじせず、積極的にコミュニケーションを取っていく広瀬の姿が映る。2人の掛け合いはテンポも良く、息ぴったり。その空気感は作品にも見事に反映されていた。

 『片思い世界』においても、公式パンフレットの中で広瀬自身が「現場でもずっと一緒にいた」と語っている。杉咲、清原と3人で過ごす時間がとても心地よく、のびのびとした様子が感じられたのも、広瀬が普段から共演者とコミュニケーションを取ることを大切にしているからなのかもしれない。

 広瀬自身が目の前にいる共演者を大切に思い、愛するからこそ、周りの役者も、彼女を信頼し、心を開いていく。『片思い世界』に映る役者たちは広瀬のみならず、全員が作品の世界に溶け込んでいた。広瀬は自身のみならず、共に映る人にも光を灯す稀有な役者だ。これからも広瀬は、幾多もの世界に溶け込み、観る人から共演者までも虜にしていくことだろう。

■公開情報
『片思い世界』
全国公開中
出演:広瀬すず、杉咲花、清原果耶、横浜流星、小野花梨、伊島空、moonriders、田口トモロヲ、西田尚美
脚本:坂元裕二
監督:土井裕泰
配給:東京テアトル、リトルモア
©︎2025『片思い世界』製作委員会
公式サイト:kataomoisekai.jp
公式X(旧Twitter):@kataomoi_sekai

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