『あんぱん』は朝ドラとして王道か、それとも新しいか? 阿部サダヲが“アニメ感”の象徴に
2024年度の映画興行収入の上位は『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』『劇場版ハイキュー!!ゴミ捨て場の決戦』『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』とアニメーションが占めている。実写は『キングダム 大将軍の帰還』『ラストマイル』『変な家』『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』などがあるが『キングダム』は漫画の実写化である。(※)
2023年の上位3作は『THE FIRST SLAM DUNK』『名探偵コナン 黒鉄の魚影』『君たちはどう生きるか』、2022年の上位3作は『ONE PIECE FILM RED』『すずめの戸締まり』『劇場版 呪術廻戦 0』。いずれもアニメである。この結果を見るとジブリや新海誠的世界観を取り入れようとすることも無理もない。ジャムおじさんをモデルにしたらしきヤムおんちゃんこと屋村(阿部サダヲ)は『ONE PIECE』のような麦わらをかぶっている。エンタメのヒットに社会状況を見るとすると、朝ドラもそこを意識せざるを得ないだろう。朝ドラではさすがにガンダムを目指すのは難しいだろうが、そのうち朝ドラにコナンみたいな大人びた少年探偵も出てくる可能性もあるのではないか。そういえばCMでも、「ドラえもんやちびまる子ちゃんが現代に生きていたら?」的な発想で人気俳優が演じているものがある。朝ドラもじょじょにそういう世界観になっていくとしても、時代の要請に従っているだけなのだと思う。
ともあれ。こうして表現を試行錯誤しながら、週末金曜日の第5話では、のぶの父・結太郎(加瀬亮)の死をきっかけに「何のために生まれてきたがやろ」と「アンパンマンのマーチ」の歌詞にもある問いが語られる。そこにひとつの答えを出すのは、屋村だ。「たったひとりで生まれてきてたったひとりで死んでいく人間ってそういうものだよ」「人間なんておかしいなあ」とつぶやく屋村を演じる阿部サダヲの黒ぐろした瞳。キャラクターのようなかわいさもある阿部だが、ただかわいいとかあったかいとかでなく、逃れられない死を意識した者の瞳に見えるのが、彼の魅力のひとつであろう。やなせたかしが阿部サダヲを見たら、どう思うだろう。
4月4日放送の『あさイチ』(NHK総合)にゲスト出演した阿部サダヲ。パン作り指導・パン職人の竹谷光司の阿部サダヲ評がこうだ。「器用ですね。勘がいい。まねるのが上手。人の動作をほんとに上手に再現する。自信がないと動作が小さくなるが、阿部さんは逆。自信がないところはむしろ大きくなる。プロ以上にプロに見える」。竹谷さん、鋭い。そして、ニコニコと純粋にパンづくりに邁進する竹谷さんの表情こそがジャムおじさんのようだった。
参照
※ https://www.eiren.org/toukei/index.html
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK