DMMはなぜ実写映像製作事業を立ち上げたのか? DMM FILMS事業部長に聞くメディア戦略

木之内:私は前職でBLドラマをたくさん作っていたんですが、そのときオンラインくじでのグッズ展開に大きな反響があった経験があり、同じように「推しを応援していく」という点ではアニメでも実写でも変わらずしっかりとできていくのかなと感じました。むしろまだ伸びしろがあるのは実写のほうかなと思い、動きはじめました。すでにオンラインくじや監督のオンラインサロンなどを展開していますが、こういったWebサービスを複数有している点は他社様との大きな相違点だと思います。DMMはサービスの数が多いからこそできることも多いのかなと。映画のマネタイズにおいて「商品化」というと、今までは劇場上映ほど大きな収益構造として見られていたわけではなく、まず劇場上映があって、次に配信があって、ビデオグラムや放送、海外販売があって……その次くらいにようやく商品化という窓口がポツンと置いてあるような構造でした(※)。それに対して、DMMの豊富なサービスがあれば商品化のマネタイズポイントをグッと広げられると思うので、作品の収支をしっかり還元していけるようになるかなと思っています。

『山田くんとLv999の恋をする』が選ばれた理由

——『山田くんとLv999の恋をする』もDMMのサービスと相性が良いと判断されたのでしょうか?

木之内:本作品に関してお話しすると、公開は3月28日なんですが2月にはすでにDMMスクラッチで原作のグッズを展開しており、非常に良い結果になりました。3月14日からはDMMオンクレでのグッズ展開を開始しています。KADOKAWA様に撮影やグッズのサンプル作りにご協力いただいて、劇場グッズとして実際に作中に登場する「ぬいぐるみキーホルダー」も販売予定です。劇場販売のグッズやDMMスクラッチ、DMMオンクレに加えて、DMMブックスとも共同して宣伝を強化しています。

山田くんとLv999の恋をする スクラッチ
『山田くんとLv999の恋をする』作中に登場する「ぬいぐるみキーホルダー」

——DMMが複数のプラットフォームを所有しているからこその相乗効果があると。

木之内:ある作品に対して、それまでタッチポイントがなかった人にもDMMのサービスを通じて認知のきっかけを増やせると思っています。サービスを複数持っている分、よりたくさんの施策を展開できるなと。

——自社の裁量で複数のプラットフォームを動かせることの強みは何ですか?

木之内:一番大きいのは、自分たちで戦略をコントロールできることかなと思っています。たとえば商品を作るにしても、カプセルトイはこの会社に委託して、ぬいぐるみはこの会社に委託して……といった動き方になるとプロモーションの時期を調整するのがものすごく大変だと思うんです。大抵は公開日にあわせて展開したいので、場合によっては特定のタイミングでしか宣伝できないかもしれません。それに対してDMMでは今回『山田くんとLv999の恋をする』の原作グッズを2月からDMMスクラッチで展開しているように、盛り上がりを「少しずつ温めていく」ような戦略も自分たちで選択できるので、作品の魅力を最大化するためにはどうすればいいか、あらゆる事業ポイントで考えられるというのが一番いいことかなと思っています。たとえば他社のテレビドラマのグッズを作る場合は放送が始まってから作りはじめたり、映画の場合、撮影で使ったものは、撮影終了と同時にバラされてしまうため、魅力的なグッズ作りが難しいといったケースも想定されます。その辺りの調整を自社で完結させられるのは大きなメリットです。特に映画の場合、本当は公開までプロモーションにかけられる時間がたっぷりあるはずなので、その時期の商品展開のスケジュールをコントロールできるのは一つの強みだと思います。

——長期のプロモーションをするうえで、どういう順序でどういう施策を打つのが効果的かという判断基準はあるのでしょうか?

木之内:作品によって全く異なりますが、『山田くんとLv999の恋をする』の場合は原作が大変人気のIPであり、映画公開の直前よりも前に改めて原作のおもしろさを思い出してほしいなという思いがありました。また、作品を知らない人にも届けたいと思い、今回はオンラインくじなどのサービスを展開いたしました。

——『山田くんとLv999の恋をする』の後に展開する作品の試作もすでに決まっていらっしゃるんですか?

木之内:『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』というオダギリジョーさん主演の映画があり、商品化の提案をさせていただいています。元々NHKドラマとして放送されていましたが、オダギリさんが“犬の着ぐるみを着たおじさん”に見えているという設定がおもしろくて(笑)。オダギリさんのキャラクターが立っているのは商品化しやすそうということで提案させていただいています。

——別サービスですがDMM TVのオリジナル作品を観ている限り、『外道の歌』や『幸せカナコの殺し屋生活』などマスメディアに比べて少し尖った企画が通っているのがおもしろいと感じていました。DMM FILMSも含めて、DMMがクリエイターにとって自身の尖った創造性を試せるような場になったらおもしろいのではないかと思います。

木之内:そうですね。クリエイターの方々とも「こういうふうにやれるとおもしろいですよね」とか、関係の築き方も含めて従来のやり方にこだわらずにやっていきたいなと思っています。今でも監督のオンラインサロンを立ち上げるなどして、クリエイターのアウトプットの場所を増やしていますが、様々な方法で貢献できればなと思っています。労働環境も整えなければならないなと常々思いつつ、それは短期間でできることではないので、まずはそれ以外のところで何ができるのかを考え、様々な方法で貢献できればなと思います。我々がもっと売上を作っていければ制作費も上がるはずなので、結果的にそれが改革につながるのかなと思っています。

DMM FILMSのこれから

木之内安代(「DMM FILMS」事業部長・チーフプロデューサー)

——エンタメ産業に対して、現状課題に感じていることはありますか?

木之内:海外展開はまだまだ可能性を秘めていると思っています。東宝様による『ゴジラ-1.0』の海外展開は大変勉強になりました。方法論含めてどういうふうに海外に風穴を開けていくのかは、業界全体の課題なのかなと思います。現状、グローバルに受ける作品というとある程度監督が限定されてしまいがちです。また、日本から海外映画祭へのアプローチがしばらくなかったという話も聞いたことがあります。もちろん、完成のタイミングや、映画祭とのマッチング、作品を売っていく戦略があってのことだと思いますが、作品が海外に出ていくチャンスを逃さないよう考えていけたらと思います。たとえば『HiGH & LOW』シリーズをはじめとして、インドネシアでは動画配信サービスで日本作品がよく観られるようになったり、「#ikuzotemera」など作中のワードが流行した事例がありますが、そういった各社のチャレンジのナレッジが共有されれば業界にとってプラスになるかなと思います。

——ネットミームによるバズを海外でいかに作るかというのも重要な戦略の一つになりそうですね。

木之内:私は前職まで韓国ドラマの輸入を10年くらいやっていまして、『冬のソナタ』や『美男ですね』の時代から最近の『イカゲーム』まで韓国ドラマが大ヒットしているのを見てきたんですが、日本のドラマも同じようにヒットできないはずはないとずっと思っているんです。方法を模索しながらも、世界で活躍できる方とお仕事をして、そのきっかけ作りができればいいなと思っています。

——海外展開は現状どのように見据えていますか?

木之内:実は今はまだそこまで人数が揃ってなくて手を付けられていないのですが……。今後事業を拡大していくにあたっては、まだまだ仲間が足りていないので、絶賛採用している最中です。DMMで映画に関わりたい人はぜひ来てほしいと思います。

——チームはどれくらいの規模なんですか?

木之内:数名で動かしています。少人数かもしれませんが、私の知る限り他社も皆さん同じように少数精鋭で頑張っていらっしゃるのは間違いないと思います。とにかく一人でも多く、一パターンでも多く、いろいろな楽しみ方で作品を受け取ってほしい。DMM FILMSを立ち上げたメンバーには、「映像作品を作る人も、それを観る人も全員が全員幸せになってほしい」という思いがあります。もう半年以上前になりますが、社内で事業のKPIを作るときに上司から「この事業を通して木之内はどんなふうになりたいんだ」と聞かれて、自分の人生をさらけ出すことから事業が始まったんですね。個人的に、自分が作った作品で面白かったにせよつまんなかったにせよ、何かしらを感じていただいている姿を見るのがすごく嬉しくて。一作品でも多く観て感じていただいて、みんなでああでもない、こうでもないと話せるような作品が作れたらなと思っています。こういう思いを明かしたら事業部の指針の一つが「みんなに小さな幸せを届ける」ということになって。映像の娯楽というのは生存には必ずしも不可欠ではないかもしれないですが、私は必要なものだと信じています。だから私たちが生み出すのは「大きな幸せ」ではないかもしれないけど、たとえば明日はちょっと頑張ろうかなと思えるような「小さな幸せ」なのではないかという話になったんです。泥臭く自分を晒け出すような話から始まったのを思い出しました。

参考
※経済産業省「第1回エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」P.11(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/entertainment_creative/pdf/001_04_00.pdf)

■公開情報
『山田くんとLv999の恋をする』
全国公開中
出演:作間龍斗、山下美月、NOA、月島琉衣、鈴木もぐら(空気階段)、甲田まひる、茅島みずき、前田旺志郎
監督:安川有果
脚本:川原杏奈
原作:ましろ『山田くんとLv999の恋をする』(コミックスマート「GANMA!」連載)
主題歌:マカロニえんぴつ「NOW LOADING」(TOY’S FACTORY)
制作:角川大映スタジオ
配給:KADOKAWA
©ましろ/COMICSMART INC. ©2025『山田くんと Lv999 の恋をする』製作委員会
公式サイト: https://yamada999-movie.com/
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