蒔田彩珠が『御上先生』で見せた新たな表情と奥行き 若手俳優の中で際立つ“存在の温度感”

 最終回を迎えた日曜劇場『御上先生』(TBS系)。教育現場のリアルを描き出すこの作品で、一際強い印象を残したのが、生徒・富永蒼を演じた蒔田彩珠だった。群像劇において、その登場シーンは濃密な余韻を残し、本作で彼女を初めて知ったという視聴者も多いのではないだろうか。

 進学校・隣徳学院に通う女子高生・富永。報道部部長の神崎拓斗(奥平大兼)とは幼なじみという関係性だが、彼に対する温かなまなざしと、さっぱりとした性格の裏にある繊細さが徐々に明らかになる。第6話における「説教するから覚悟しといて」という御上孝(松坂桃李)の心の壁に富永が切り込むこの台詞は、今作を象徴する瞬間だった。亡き兄について多くを語らぬ御上に対し、彼の教師という役割を超えて人として向き合おうとする富永の姿勢が心に残った。富永の優しさと怒りの入り混じった温度は、蒔田の演技によって初めて現実味を帯びたように思う。

 このシーンで重要なのは、蒔田の発する台詞に込められたニュアンスの豊かさだ。大きな声で叫ばなくても、目線の揺れや少しだけ掠れる声、ため息にも似た間が、登場人物たちの過去と現在、そして人間関係の奥行きを静かに語っていた。ドラマの脚本自体が持つ力もさることながら、それを生きた言葉に変える蒔田の演技は、観る者の感情を優しくほどいていくような力を持っている。

 蒔田にとって、富永蒼という役柄は新境地だった。これまでNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(2021年度前期)や映画『朝が来る』(2020年)などで、内省的な人物を演じることの多かった彼女が、明るくエネルギッシュな高校生をどう演じるのか。役作りに際しては監督やプロデューサーとの話し合いを重ねたという(※1)。富永は、クラスの中で目立ちすぎることもなければ、引っ込み思案でもない。自分の立ち位置を自然と理解し、場の空気を読むことで誰かを傷つけることなく率先して動く、いまどきの高校生のリアルな輪郭を備えているキャラクターだと思う。そのリアリティを、蒔田は持ち前の観察力と感受性で見事に掬い取った。他の女性生徒たちと比較しても、富永は物語のキーモーメントに深く関与し、神崎や御上との関係性を通じて作品の軸をなす感情の橋渡しのような存在となっていた。蒔田の的確な表現力が、ドラマ全体の人間関係に有機的な繋がりを与えていたことは言うまでもない。

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