新原泰佑が『御上先生』御上宏太役で放った衝撃 杉村春子賞も受賞で一気に飛躍のときへ
『御上先生』で見せた新原の説得力は多くの舞台経験から培ったものではないだろうか。筆者が舞台俳優として新原を認識したのは、2023年の『ロミオとジュリエット』(演出:井上尊晶)だった。その前年の2022年、『ラビット・ホール』でストレートプレイ初出演を果たしたばかり。『ロミオとジュリエット』で新原は高杉真宙演じるロミオの親友・マキューシオを演じていた。この役は主役ではないながら重要で、若い俳優の才能の見せどころのある役だ。新原のマキューシオはスピード感と若者特有の屈折感があって印象的だった。
その後、出演したのは『インヘリタンス』。こちらは極めて社会派な作品で、ゲイ・コミュニティを中心に80年代から現代(2010年代)にどのような時代の変化があったか描いたもの。そこで新原は主人公に多大な影響を与える若者二役に挑んだ。主人公の最愛の少年という役割で、いま、この瞬間しかない、かけがえのない若さ、美しさ、純粋さみたいなものの象徴でいられることは選ばれた者の特権である。若ければ、端正であれば、誰でもいいわけではなく、何かを「持って」いる奇跡が必要で、新原にはそれがあるようだ。『インヘリタンス』では篠井英介、麻実れい、山路和弘などベテラン俳優に揉まれたこと、戯曲の解釈の深度や角度に定評ある熊林弘高の演出などが学びになっただろう。
『球体の球体』で初主演を果たした。演劇のキャリア的にはかなり順調なほうだと思う。『球体の球体』は脚本家・演出家・造形作家として幅広く活躍する池田亮の作品で、新原は現代アーティスト役。つらつらと知的な言葉を語ったり、得意のダンスも披露したり。現時点での到達点といって良さそうな作品だ。これだけの作品を体験したうえでの『御上先生』であるから、出番は短くてもひとりの人間のもつ陰影が出せ、かつ人間の真理に迫れたのであろう。
これからはミュージカル『梨泰院クラス』が控えている。役は主人公パク・セロイの敵役・グンウォンの異母弟グンス。イソを好きになってセロイのもとで働くことになるという複雑な役回りである。ミュージカルならではのダイナミックな表現と繊細な心情表現を合わせて見せてくれそうだ。