『東京サラダボウル』の核にあった“決める”ことの大切さ 鴻田と有木野との再会を願って

『東京サラダボウル』の核にあった“決める”

 外国人居住者やLGBTQ+当事者への差別や偏見と真っ直ぐに対峙してきた本作にとって、多くの不法滞在者を、人身売買ビジネスを手掛ける組織であるボランティアに横流しし、さらには織田を追い詰め、死に追いやった阿川と、ボランティアの一味であるシウは、本来徹底的に断罪されるべき存在だ。そんな彼らを、鴻田と有木野、並びに視聴者が惹きつけられずにはいられない存在として描いたことが本作の最も興味深い点だ。彼らが惹かれずにはいられない存在であればあるほど、視聴者は彼らの心に目を向ける。なぜ彼らは闇に落ちたのか。

 そこでシウが突きつけるのが「だって、僕みたいなやつ、ずっとあんたら無視して生きてきたでしょ。社会に追いやられてこぼれ落ちた……。かわいそうな人間を。た~くさんいるの。僕以外にもたくさん。この街で生きてる」という言葉と、道行く人々の姿だった。それは第1話において鴻田が言った「東京都の外国人居住者の割合は4,8%。パーセンテージで言うとたったそれだけ。でも人数で言うと68万人だよ。それだけの人生が確かにあるんだよ」という言葉を呼び起こす。第5話がベトナム人ケアスタッフのティエン(Nguyentruongkhang)とケアスタッフの早川進(黒崎煌代)という2人の若者が感じている「友情」の微妙な違いの残酷さを浮き彫りにしたように、本作は雑踏の中にひしめく様々な思いを、無数の「違い」とそれによって生じる心の歪みを、それでも互いに手を取り合いたいと願うことの大切さを、丁寧に描き出した。

 鴻田と有木野が拾い上げなければいけない「こぼれ落ちそうな人生」は、無数にある。大勢いるボランティアを「全員探しだそうなんて無理だよ」と言うシウに対し「無理だとしてもどこに何人いようが、探し続けるだけだ。俺たちはそう決めた」と有木野は言った。「決める」こと。スヒョンが鴻田に言った「大事なのは、決めることなんよ。自分の色を決めて、この色で塗っていくんやって、思い切って筆を落とす」という言葉。鴻田が警察官を志すきっかけになった「よく決めたね、立ち向かうって。誰にでもできることじゃない」という織田の言葉。4年前の事件と今回の事件を繋ぐ鍵となった人物・リンモンチ(李丹)の心を動かしたのも「まずは決めることです。今日からやり直すって」という織田の言葉だった。

 「私はね、人はたとえ目の前からいなくなってしまったとしても、残された全ての人の中で“かけら”として残っていくと思ってるんだ」という鴻田の言葉のように、「決める」という言葉は、今はいない人々の思いの欠片となって、今も、きっとこれからも、鴻田と有木野の背中を押すことだろう。そしてそんな2人に、いつの日かまた、会いたいものである。

■放送・配信情報
ドラマ10『東京サラダボウル』(全9回)
再放送:NHK総合にて、毎週木曜24:35〜25:20放送
NHKプラス、NHKオンデマンドにて配信
出演:奈緒、松田龍平、中村蒼、武田玲奈、中川大輔、絃瀬聡一、ノムラフッソ、関口メンディー、朝井大智、張翰、許莉廷、喬湲媛、Nguyen Truong Khang、阿部進之介、平原テツ、イモトアヤコ、皆川猿時、三上博史
原作:黒丸『東京サラダボウルー国際捜査事件簿―』
脚本:金沢知樹
音楽:王舟
メインテーマ曲:Balming Tiger
メインビジュアル・デザイン:大島依提亜
メインビジュアル・スチール撮影:垂水佳菜
演出:津田温子(NHKエンタープライズ)、川井隼人、水元泰嗣
制作統括:家冨未央(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)
プロデューサー:中川聡子
写真提供=NHK

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