アニメスタジオのここが知りたい!
MAPPA副社長・長谷川博哉に聞く、アニメ制作の最前線 “若手にもチャンスが多い会社”
アニメスタジオに潜入し、スタッフへのインタビューを通してそのスタジオが持つ“独自性”に迫る連載「アニメスタジオのここが知りたい!」。第6回となる今回は、制作部プロデューサー兼取締役副社長を務める長谷川博哉氏の目線から「MAPPA」の魅力を掘り下げていく。(編集部)
2011年の創業から10年足らずで、日本のアニメ業界を代表する制作スタジオとなったMAPPA。数多くの作品を高品質で制作し、ライツビジネスにも力を入れていることで知られ、国内外のアニメファンにその動向が常に注目されるスタジオの1つへと成長している。
果たしてMAPPAは、どのような姿勢でアニメ制作に臨んでいるのか。2024年の話題作『忘却バッテリー』のアニメーションプロデューサーと『らんま1/2』の制作統括プロデューサーを担当し、2023年から同社の副社長にも就任した長谷川博哉氏に話を聞いた。
MAPPAには常にオリジナル企画をやりたい人がいる
――長谷川さんがMAPPAに参加した経緯からお聞きします。
長谷川博哉(以下、長谷川):『魔法使いの嫁』『ヴィンランド・サガ』という2つの作品の続編制作にあたり元の会社を離れることになりまして、『ヴィンランド・サガ』監督の籔田さんがすでにMAPPAに所属していた関係から「MAPPAで『ヴィンランド・サガ SEASON 2』の制作を行えないか?」と提案を受けたのがきっかけになります。MAPPAは当時2020年時点で制作作品数が他社と比較してもすごく多い印象だったので、個人的には予定になかった作品を引き継ぐのは難しいんじゃないかと思っていました。その後、代表の大塚(学)さん、籔田さんと協議する場を設けてもらったのですが、ありがたいことにすんなりと快諾してもらえて、且つMAPPAという会社に対して僕がイメージしていたことも少し変化したところがありました。こういった経緯とご縁がありまして、MAPPAへの入社に至りました。
――長谷川さんがこれまで所属していた会社とMAPPAには、違いはどんなところにありますか?
長谷川:先にもお伝えしたように制作作品数が多いので、その分チャンスも多い会社だと思います。自分が作りたいものがあって、人を引き寄せられるだけの説得力を持っているのであれば、キャリアが若くてもデスクやプロデューサーに挑戦できる環境ではあります。あとは、サービス精神もすごく感じますね。どういうふうにこの作品でお客さんに盛り上がってもらおうとか、そういうことを必ず念頭に置いて取り組んでいる印象です。制作会社は本来、アニメーション映像を作ることが第一ですけど、MAPPAは商品化や催事化、配信や宣伝などのビジネスを担う部署があるので、作った映像をどう運用していくのかも、自社で積極的に取り組めます。
――原作ものとオリジナルものの企画において、差異やそれぞれの意義など、長谷川さんはどうお考えですか?
長谷川:原作ものの場合は、すでに原作を支持しているファンの方たちがいて、その方たちの応援があって、僕らに映像化するチャンスが巡ってきたと捉えています。なので、まずは原作ファンの方たちに喜んでもらえることを第一にします。一方、オリジナルは誰も観たことがないわけで、どれだけの人を惹きつけられるのかを考えなくてはなりません。なので、ターゲットとか魅力をある程度明確にして作っていく必要があります。そのために大切なことは、監督の頭の中のビジョンが本当に核となるので、監督が何を作りたいと考えているのかを丁寧に向き合って拾い上げるようにしています。
――MAPPAのオリジナル企画はどのように成立するのですか?
長谷川:時期は関係なく常に面白いものに取り組んでいたいので、水面下で開発を続けながら、流行などを見てその中から選んで具体化させていく感じです。オリジナルの作品を作りたいと思っている社員はすごく多いです。
――人気マンガのアニメ化作品が注目される中で、オリジナル企画の難しさや良さというのは、プロデューサーの視点からなんだと考えていますか?
長谷川:良さは自分たちが世界観そのものや、その中にいるキャラクターたちのドラマの展開を自由に考えられることですね。反面、リスクは原作がある企画よりも意識しなければなりません。
――長谷川さんは、『らんま1/2』という名作のリメイクも手掛けています。こうしたリメイク企画も業界全体で増えていると思いますが、リメイクの難しさや意義についてはどう考えていますか?
長谷川:『らんま1/2』のリブートは本当に難しいと思っていました。キャスティングについても新しい方にお願いするのか、前作の方たちに続投していただくのか、これだけでも大きな判断です。ただまず第一に旧作を否定するような見え方だけにはしたくないと思いました。旧作が名作でいまも支持してくださる方が多いから僕らにチャンスが回ってきたわけなので。旧作への敬意を持ちながら、どうアプローチすべきか、スタッフ含め、すごく考えながら制作しました。
――ちなみに、クオリティと事業予算のバランスについて、プロデューサーとしてどういうふうに取っているのですか?
長谷川:必ずしもどの作品も一定のラインに到達しないといけないわけじゃないと僕は考えていて、それぞれの作品に対してお客さんが求めている品質を、まずなるべく周りのスタッフたちにわかりやすい形で提示する必要があると思っています。予算はプロジェクトによってさまざまなので、目線を揃えなければバランスを維持することは難しく、そういう意味では、僕がこれまでに関わった『ヴィンランド・サガ』も『忘却バッテリー』も、設定した作品の質のラインは異なっていると思います。ただ、MAPPAとしてのブランドを大事にしたいので、「MAPPAがこんな作品でいいの?」と思われるようなものは出さないように、大塚さんをはじめ、社内のたくさんの人間が品質のチェックをするようにしています。