『おむすび』不振の原因を分析 『虎に翼』が書き換えた“朝ドラ視聴者の構図”

 『おむすび』(NHK総合)も残すところ1カ月あまり。阪神・淡路大震災から30年のタイミングで放送された本作は、子どもの頃に震災を経験し、管理栄養士となった米田結(橋本環奈)の成長を通して、困難に負けないギャルマインドと日常の尊さを描く。

 『おむすび』をめぐる状況は厳しい。第20週現在の週平均視聴率は低調で、SNSやWebメディアの反応もかんばしくない。好意的な声もあるが、ドラマを専門にする評論家やライターの間でも賛否両論が分かれる状況だ。なぜ、これほど評価の差が生まれてしまったのか? この記事では『おむすび』低迷の原因を探りつつ、NHK連続テレビ小説をめぐる状況の変化を考えてみたい。

 『おむすび』を成り立たせるファクターは多彩だ。主なものとして、震災、ギャル、栄養士が挙げられる。それらは主人公である結のアイデンティティーを形成しつつ、物語の縦軸を担っている。よくあるドラマの構成は設定、対立、解決の三幕構成で、『おむすび』でもこの構成は踏襲されている。主要人物の紹介と震災の経験、ギャル、栄養士という基本路線は福岡・糸島編の第7週までに敷かれた。第8週以降は神戸・大阪での生活を通して震災の記憶と向き合い、栄養士として結はキャリアを築いていく。最終的に令和の現在に行き着くことが予想される。週単位でも起承転結が繰り返されるのは過去作と同様だ。

 今作の課題を挙げるとすれば、全体を通して物語が直線的で波乱が少ないことである。子役パートを含まない今作は、震災を描く過去パートと回想シーン以外は時系列で進むオーソドックスなつくりである。そのこと自体に問題はないが、ドラマ全体のフックになるような目立った葛藤・対立がない。また、生起するトラブルも週の中であらかた解決される。主人公が直面する問題も家族や友人など身近な関係で収束するものがほとんどだ。淡々と日常を紡ぐといえばその通りだが、ドラマ全体の印象が薄味になっていると感じる。

 個々のエピソードに目を向けると、入念な取材にもとづいて設定が練られており、冒頭で掲げたようなテーマが伝わってくるのだが、そのためにはある程度、観る側が文脈を読み取って補完する必要がある。たとえば、朝ドラ名物の毒親や主人公に立ちはだかる社会的・経済的な壁などの外的な要素があれば違ったかもしれない。わかりやすい敵を設定しなかったのは、震災と誠実に向き合う制作側の意図もあっただろう。その反面、震災という現実の出来事を超える仕掛けを生み出せていないことも事実である。

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