バカリズム作品に共通する2つのジャンル 『ホットスポット』の会話劇は“SF×あるある”
バカリズムが脚本を手掛ける『ホットスポット』(日本テレビ系)は、宇宙人が暮らす地方都市を舞台にしたSFドラマだ。
山梨県で暮らすシングルマザーの遠藤清美(市川実日子)は、温泉のあるビジネスホテル「レイクホテル浅ノ湖」で働いていた。仕事帰りに交通事故に遭遇しそうになった清美は、同僚の高橋孝介(角田晃広)によって回避。その際に高橋は超人的な身体能力を見せたのだが、実は彼の正体は「宇宙人」だった。
放送された第4話までは高橋の正体を知っている清美と彼女の地元の幼なじみが遭遇するトラブルを、高橋が宇宙人の力で解決するドラマとなっている。
こう書くと壮大なスケールのSFドラマに思えるが、そこはバカリズムと言うべきか、一筋縄ではいかない。
清美たちに頼まれて高橋が解決する問題は、ホテルで盗まれたテレビを「臭いを辿って」探し出すとか、学校の体育館の天井の骨組みに引っかかったボールを超人的なジャンプで叩き落とすといった、日々の些細なものばかり。途中で高橋が犯罪者を発見して、人知れず捕まえることもあるのだが、ヒロイックな盛り上がりは避けられており、実にあっさりと描かれている。
あくまで物語の中心にあるのは清美の日常で、彼女が幼なじみと集まってカフェで世間話をする姿や、ビジネスホテルで同僚たちと淡々と仕事をこなす姿、そして子どもと暮らす家庭でのやりとりといった、友達、職場、家庭を行き来する日常が、丁寧かつ淡々と描かれる。
そんな清美の日常と対比するかたちで“宇宙人”という非日常の存在が現れるのだが、高橋の姿はどこにでもいる平凡な中年男性。「身体能力を大幅に向上させることができる」という意味では非日常の存在だが、その力も決して万能ではなく、力を使った後は痒み、鼻水、耳詰まりといった体調不良につながる副作用がある。
また、高橋の性格は少し神経質で、余計なことをネチネチと言って清美をイラっとさせることがある。逆に言うととても人間的で、SF映画に登場する宇宙人のような突飛な振る舞いや言動はまったく行わない。
宇宙人なのに、とても人間的な高橋の姿や振る舞いが象徴的だが、非日常の存在を描いているはずなのに、地に足のついた日常が淡々と続いていく落差が、SFドラマとしての『ホットスポット』の特異性だろう。
脚本を担当するバカリズムはお笑い芸人として活躍する傍ら、連続ドラマの脚本を多数執筆している。彼のドラマには二つの特徴がある。
一つはSF的なアイデア。過去の分岐点に戻るタクシーに乗った人物が人生を何度もやり直そうとする姿を描いた『素敵な選TAXI』(カンテレ・フジテレビ系)はその筆頭で、時間SFであると同時にマルチエンディングのゲームをプレイしているときの感覚をドラマ化したような面白さがある。